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CHIPS法の成功事例となるか パワー半導体ファウンドリーを目指すPolar課題は顧客獲得(1/3 ページ)

米CHIPS法による助成金を最初に獲得した企業で、サンケン電気の米国子会社でもあるPolar Semiconductorは、より幅広い顧客向けにパワー半導体を製造する商業ファンドリーへと転換しようとしている。半導体製造の自国回帰を進める米国にとって、Polarの戦略が成功するか否かは重要な指標になりそうだ。

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 Polar Semiconductor(以下、Polar)は、CHIPS法(CHIPS and Science Act)による助成金が確定した最初の企業である。同社のCEO(最高経営責任者)、Surya Iyer氏は、この資金を基に、パワー半導体製造を専業とする「世界初のファウンドリー」への転換を目指していくという。

 CHIPS法を監督する米国商務省(DoC)は2024年9月、Polarに最大1億2300万米ドルとなる初の直接資金を提供することを決定した。しかし、Polarがこの資金を確保するためには、プロジェクトマイルストーンを完成させる必要がある。


Polar SemiconductorのCEO、Surya Iyer氏 出所:Polar Semiconductor

 今のところPolarにとって、CHIPS法による資金は、計5億2500万米ドルの新たな投資を獲得する上で役立ったといえる。その中には、プライベートエクイティファンドであるNiobrara CapitalとPrysm Capitaからの出資金1億7500万米ドルも含まれており、両社は、サンケン電気とAllegro MicroSystemsに代わり、Polarの新しい過半数株式保有者となった*)。このような新しい保有者は、Polarが、サンケン電気やAllegro Microsystemsに半導体チップを供給する専属ファウンドリーから、より幅広い顧客向けに半導体チップを製造する商業ファウンドリーへと転換していく上で、支援を提供することになる。

*)Polarはサンケン電気の米国子会社で、以前はサンケン電気が70%、同じくサンケン電気の米国子会社であるAllegro MicroSystemsが30%の株式を保有していた。

 Iyer氏は、米国EE Timesのインタビューの中で、「CHIPS法がなければ、われわれは現在の規模に到達できなかっただろう。プライベートエクイティが当社に投資することはなかっただろうし、われわれは防衛産業ベースのビジネスにアクセスすることができず、ファウンドリーにもなれなかっただろう。依然として専業ファウンドリーのままだったら、最先端技術の入手や顧客基盤の多様化は実現できなかった。だが今や未来に向かってさらに発展していけるようになった」と述べている。

 520億米ドル規模のCHIPS法は、縮小の一途にある米国の半導体産業を復活させることを目指す。CHIPS法を支持する大手半導体メーカーの生産に遅れが生じているのは、米国政府の刺激策パッケージが期待に応えられていない可能性があるという兆候だといえる。Polarは、実際に助成金を受け取ることになる最初の半導体メーカーとして、注目を集めている。

 Prysm Capitalの共同創設者であるJay Park氏は、発表した声明の中で、「Polarへの公共/民間投資は、同社が提供する製品とチームの強さの証しであり、米国におけるオンショア技術投資のための重要なイベントだといえる。Polarが予定している生産能力に関しては、既にわれわれの予測を上回る大きな需要が見込まれている」と述べる。

2年で生産能力を拡大

 Polarは、Prysm Capitalなどの投資家たちを満足させるだけでなく、マイルストーンを達成していることを商務省に納得してもらう必要がある。Polarは新たな投資により、生産能力を約2倍に高め、化合物半導体やセンサー、高性能パワー半導体の機能を追加できると期待する。

 Iyer氏は、「商務省はPolarに対するマイルストーンとして、特に生産能力の拡大や、新技術の取得、専業ファウントリーから商業ファウンドリーへの転換などを求めている」と説明する。Polarは、新工場を建設せずに生産を拡大するという点で、CHIPS法の助成金を当てにして米国で新しいグリーンフィールド工場を建設している他の半導体メーカーとは異なる。このような新工場の建設には、5年ほどかかる場合もある。

 「クリーンルームをはじめ、膨大な量の建設を行うことになるが、われわれが既に保有している工場の中で行うため、2年で完成させられる。これが商務省の関心を引き付けたのだろう」(Iyer氏)

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