CHIPS法の成功事例となるか パワー半導体ファウンドリーを目指すPolar:課題は顧客獲得(2/3 ページ)
米CHIPS法による助成金を最初に獲得した企業で、サンケン電気の米国子会社でもあるPolar Semiconductorは、より幅広い顧客向けにパワー半導体を製造する商業ファンドリーへと転換しようとしている。半導体製造の自国回帰を進める米国にとって、Polarの戦略が成功するか否かは重要な指標になりそうだ。
顧客獲得が最大の課題に
Polarにとって最大の難関は、サンケン電気やAllegro Microsystemsなどかつての株式保有者への供給から、航空宇宙防衛や医療機器、オプトエレクトロニクスなど、Iyer氏がターゲットに定める新しいビジネス分野でより多くの顧客を獲得する方向に軸足を移していくことにある。
「当社には、そのためのスキルや適切な人材が多くないため、営業や事業開発などの機能を強化すべく、大勢の人材を採用しているところだ。その戦略の一環として、ファブレスメーカーにデザインキットを提供し、当社のプロセスを使って製品を生産できるようにするというものがある。やるべきことはまだいくつかある」(Iyer氏)
一部の顧客企業は、Polarの新たな方向性に対して確信を示している。
iDEAL Semiconductorの共同創設者であるMike Burns氏は、EE Timesの取材に対し、「Polarは、米国の中規模な独立系ファウンドリーと協業する絶好のチャンスだといえる。経営陣は、成功するためには技術開発に優れていなければならないことを理解している。パワー半導体やアナログ/ミックスドシグナルなどの分野では、技術開発の一部の要素として、プロセス開発や、工場と顧客エンジニアとの間のデータ共有による強力な戦略的連携が含まれる場合があるため、その重要性はさらに高くなる。新製品開発に対するPolarのコミットメントは、米国内でタイムリーかつ高いコスト効率でプロセス実現を必要とする当社にとって、非常に重要であると考えている」と語った。
Polarは、今後数カ月の間に新しい技術を入手する予定だという。
「こうした新技術としては、最先端のセンサー技術や、ワイドバンドギャップ(WBG)のようなパワー半導体技術を予定している。現在交渉中のため、詳細については明かせない。当社が実際にライセンス供与を受け、技術を移転し、こうした新しい技術で製造を行っているということを米国政府に実証しなければならない」(Iyer氏)
サプライチェーンを米国中心に
また、Polarが商務省の期待に応えるためには、サプライチェーンの多くを米国と友好国に移行することになるだろう。
Iyer氏は、「われわれは、中国の供給源を排除しようとしている。既に、それを確実に実行するための一歩を踏み出したところだ。そして第2段階として、米国以外のサプライヤーの二次/三次供給源を追加していく。フォトレジストなどの化学物質を供給する海外メーカーであっても、その多くは米国に拠点を持っている」と述べる。
Burns氏は、「われわれは、iDEAL向けのサプライヤーとしてグローバル企業を検討していたが、Polarを選んだ」と述べている。
「Polarの経営は、米国の経済安全保障を支えるセキュアなサプライチェーンが必要であるという当社のビジョンと合致している」(Burns氏)
Iyer氏は、「Polarは、スタートアップがいわゆる“死の谷”を越えて生産規模にまでアイデアを引き上げられるよう、サポートすることができる」と付け加えた。
「またわれわれは、『米国を二次供給者として確保したい』『自社製IPを保護したいが台湾や中国、韓国には頼りたくない』という大手メーカーにもサービスを提供することができる」(Iyer氏)
さらに同氏は、「Polarは、新たな資金の一部を利用して、輸送の自動化をはじめさまざまな改善を加えることにより、自社のさらなる高効率化を実現し、アジアの競合相手との競争力を高めていきたい」と説明する。
Polarは、TSMCや米国を拠点とするGlobalFoundriesのような大手ファウンドリーと、さらに直接的に競合することになるだろう。
Iyer氏は、「当社は、小さ過ぎず大き過ぎずちょうどよい規模なので、アジアと競争することができる。TSMCやGlobalFoundriesのように大き過ぎることもない」と述べる。
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