シェアを奪われたKnowles 民生向けMEMSマイク事業を売却:航空宇宙など産業向け事業に集中
Knowles Corporationは2024年9月、民生機器向けMEMSマイクロフォン事業をSyntiantに1億5000万米ドルで売却すると発表した。「産業技術メーカー」を目指す上での決定だという。
Knowles Corporation(以下、Knowles)は2024年9月、コンシューマー向けMEMSマイクロフォン(CMM)事業をSyntiantに1億5000万米ドルで売却することで合意したと発表した。産業技術メーカーへの移行を進めていく中で、徹底的な戦略見直しを行った結果だという。
Knowlesは2023年に、Cornell Dubilierを2億6300万米ドルで買収した後、しばらくの間自社のCMM事業の売却先を検討していて、CMM事業の戦略的代替案についても模索していることを明かしていた。
同社の声明によると、CMM事業の売却は同社の「精密機器/医療技術/特殊オーディオ部門からなる産業技術メーカーになるための継続的な変革」を支援するものだという。プロフォーマベースでは、KnowlesのCMM以外の事業の売上高は、Cornell Dubilierを含めて5億6000万ドルだった。
KnowlesのCEO(最高経営責任者)であるJeffrey Niew氏は「この発表は、Cornell Dubilierを含む買収の成功に続いて、Knowlesが一流の産業技術企業へと変貌を遂げる上での新たな重要な節目となる」と述べた。
シェア争いに敗れたKnowles
フランス市場調査会社Yole Groupの当時のアナリストによると、MEMSオーディオ業界全体は過去20年間にわたって成長を遂げてきた。その中でInfineon TechnologiesやTDK Invensense、MEMSensing、STMicroelectronics、AAC Technologiesなどのメーカーからさまざまな競合製品が登場し、KnowlesはMEMSマイク分野におけるトップの座を失うことになったという。また、Yole Groupが2023年9月に実施した調査によると、AppleやSamsung Electronics、Xiaomiなどのスマートフォン/ウェアラブル機器に中国のGoermicroのようなメーカーが採用されたことも、Knowlesの市場リーダーシップに影響を及ぼしたとみられる。
今回の売却が発表されてから筆者が話を聞いた一部の業界関係者たちは、「Knowlesの売却願望と、Syntiantの財務状況が組み合わさり、CMM事業部門を『不良資産(ディストレス資産)』として拾い上げることが可能になった」とコメントしている。
SyntiantはAIとマイクのコンビネーションに期待
SyntiantのCEO(最高経営責任者)であるKurt Busch氏は、発表した声明の中で、「大規模言語モデル(LLM)が、自然言語理解機能を向上させて複雑なタスクを自動化し、業界に革命を起こし続けている。将来的にはほぼ全てのマイクが確実にAI(人工知能)対応になるだろう。Syntiantは今回の買収によって製品ポートフォリオを強化して、数十億米ドル規模のMEMS市場に参入できる。そしてセンサー(マイク)やプロセッサ、高性能機械学習モデルなどを統合した包括的なエンドツーエンドのソリューションを提供することで、AI主導インタフェースの主要プロバイダーとして独自の位置付けを獲得する」と述べている。
同氏は「自動運転車やスマートホームデバイス、産業オートメーションのいずれの分野でも、SyntiantのAIプロセッサ採用製品の多くにはマイクが共に搭載され、音声コマンドや音声認識、エコーキャンセル、バックグラウンドノイズ抑制、ウェイクワード検出、オーディオイベント検出などの次世代AI機能が実現されていくだろう」とし、「今回の買収によって、実績ある技術や世界クラスの多国籍事業、世界中でサービスを提供する顧客との長期的な関係性などを持つ非常に優れたチームを獲得できることを大変うれしく思う。彼らをSyntiantのファミリーとして迎え入れることをとても楽しみにしている」と述べている。
【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】
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