グラフェン素子からの波長可変な赤外発光を初観測:微弱な中赤外発光を高感度に検出
東京農工大学の研究グループは、情報通信機構やアデレード大学、東京大学と協働し、磁場下のグラフェン素子において、波長を可変できる電気駆動の赤外発光を初めて観測したと発表した。
電流端子近くにある2つの対角線上コーナーから発光
東京農工大学大学院工学研究院先端物理工学部門の生嶋健司教授らによる研究グループは2024年11月、情報通信機構やアデレード大学、東京大学と協働し、磁場下のグラフェン素子において、波長を可変できる電気駆動の赤外発光を初めて観測したと発表した。
遠赤外光〜中赤外光帯域は、分子や結晶の振動など多くの情報を含んでおり、光学や電子工学を始め、多くの分野でその応用が注目されている。ところが、波長を可変でき連続発振する電気駆動の遠赤外光〜中赤外光帯光源を実現するのは難しいといわれてきた。
こうした中、ランダウ準位発光を用い、磁場で波長を可変できる遠赤外・中赤外レーザーの開発が半世紀前から行われてきたという。しかし、通常の半導体で形成される等間隔のランダウ準位では電子−電子散乱が大きく、赤外レーザーの開発までは至らなかった。
これに対し炭素原子一層のグラフェンは、ランダウ準位が等間隔ではないため、中赤外レーザーを実現できる可能性が高いといわれてきた。ただ、対象の波長領域を検出できる測定器の性能が十分ではないこともあり、ランダウ準位に起因したグラフェン素子からの発光を観測したという報告がこれまではなかった。
そこで研究グループは、高感度の検出器(電荷敏感型赤外フォトトランジスタ)を用い、5Tという磁場下でグラフェン素子からの中赤外発光を観測することにした。そして実験により、電流端子近くにある2つの対角線上コーナーから発光していることを確認した。
ランダウ準位発光では、ランダウ準位のエネルギー差に相当する波長の光が放出される。そのエネルギー差は磁場の平方根に比例するという。今回の実験により、グラフェン素子からの発光が、磁場の平方根に比例して波長可変であることを実証した。
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