「他国に頼っている場合ではない」 RISC-Vで技術的独立を目指す欧州:自動車や航空宇宙産業に注力(2/3 ページ)
欧州は、RISC-Vを活用した技術開発を加速させている。半導体業界におけるアジアへの依存度を下げて欧州の技術的独立を推進するねらいだ。
誰のものでもないRISC-Vは「ハードウェアのLinux」
BSCは、RISC-Vチップ設計における深い専門知識を活用し、AR2SECプロジェクトにおいて重要な役割を担う。BSCは、RISC-V技術を専門とする約300人の研究者を擁していて、バルセロナをこのオープンソースアーキテクチャの世界的ハブにすることを目指す。BSCのディレクターであるMateo Valero氏は2024年初めに、EE Timesの取材の中で、「RISC-Vは、『ハードウェアのLinux』だ。どの企業のものでもないオープンソースのISA(命令セットアーキテクチャ)で、柔軟性とセキュリティ向上に役立つ。欧州にとって魅力的な選択肢だ」と語っている。
BSCは、SoC(System on Chip)向けのプロセッサコアの開発などで、AR2SECに多面的に貢献している。BSCが開発したコアは、柔軟で高性能な設計なので、自動車や航空宇宙など、さまざまな業界の多様なニーズに対応できる。Abella氏は、「われわれは、幅広いアプリケーションに適応する汎用性の高いプラットフォームを構築している。同じコアアーキテクチャを、自動運転システムから航空電子工学まで、あらゆる分野に使用でき、これらの分野で求められる安全性と信頼性を維持することができる」としている。
企業の連携でイノベーションを推進
AR2SECは、安全で高性能なチップの開発という課題に取り組むために、欧州の企業や研究機関が結集した共同プロジェクトだ。例えば、GTD Science Infrastructures & Roboticsは、特に核融合エネルギーアプリケーションにおけるシステム統合と制御システムの専門知識を活用している。Clue Technologiesは、航空宇宙分野向けの安全な通信モジュールの開発に注力し、低遅延性と高信頼性を実現している。TECHNICA Electronicsは、厳格な安全性/性能基準を満たす実際の自動車ユースケースを提供している。Fent Innovative Software Solutions SL(FentISS)は、「XtratuM」ハイパーバイザーを含む重要な低レベルソフトウェアを提供し、さまざまな重要分野における安全性と認証を確保している。
Abella氏は、これらの協業の重要性を強調し、「Clue Technologiesは航空電子工学、TECHNICAは自動車というように、各パートナーが独自の専門知識を提供し合っている。こうしたコラボレーションによって、AR2SECのソリューションは専門的根拠に基づいた、対象とする業界に適したものになっている」と指摘する。
AR2SECは、協調的なアプローチを優先することで、革新的なだけでなく、以下のような、さまざまな業界の進化するニーズに沿ったソリューションの開発を目指している。
- 仮想車両による自律型ロボット:さまざまな用途向けに設計された高度なロボットシステムの開発に重点を置き、AR2SECの技術がダイナミックな環境において自律性と運用効率をいかに高められるかを示している。
- CAF Signalingによる自律走行列車:高度な通信技術と安全技術を鉄道システムに統合することを重視し、現代の交通インフラにとって不可欠である列車運行の信頼性と安全性向上を目指す。
- Airbus Defence and Spaceの人工衛星と深宇宙ステーション:人工衛星と深宇宙ステーションの技術開発に焦点を当てた、2つの異なる宇宙プロジェクトが関与している。これらのプロジェクトは、AR2SECのチップが、過酷な条件下での耐久性や信頼性など、航空宇宙産業の厳しい要件を満たすことができるかを実証する上で極めて重要である。
「これらのコンポーネントは、プロジェクトの4つのユースケースでテストしている。また、産業界での使用に向けてCollins Aerospaceに移管していて、欧州のプロジェクトや産業界でより多くの機会を創出し、RISC-Vに関心のあるグループと知識を共有している」(Abella氏)
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.