「他国に頼っている場合ではない」 RISC-Vで技術的独立を目指す欧州:自動車や航空宇宙産業に注力(3/3 ページ)
欧州は、RISC-Vを活用した技術開発を加速させている。半導体業界におけるアジアへの依存度を下げて欧州の技術的独立を推進するねらいだ。
航空宇宙産業の安全要件にも対応
AR2SECが取り組んでいる主要課題の一つは、航空宇宙などの重要産業の厳しい安全要件を満たす高性能プロセッサの開発だ。性能が最も優先される民生機器とは違い、安全性と予測可能性を最優先にする必要がある。
Abella氏は、「ゲームや携帯電話用に設計されたチップを、そのまま自動車や飛行機に使うことはできない。安全基準がまったく異なるからだ。プロセッサが故障したら、携帯電話なら再起動すればよいかもしれないが、自動車や飛行機では大惨事を招きかねない」と述べている。
AR2SECは、こうした課題を克服すべく安全性を確保するための最小限の修正を加えながら、既存の技術を再利用することを重視している。Cazorla氏は、「ゼロから全てを再設計するのではなく、既存の高性能コンポーネントにリアルタイム制御やエラーチェックなど、セーフティクリティカルな側面を処理するモジュールを追加している。これにより、一から作り直す労力をかけずに安全基準を満たすことができる」と述べている。
アジア依存低減で「経済的/技術的に自らの運命をコントロールする」
AR2SECプロジェクトは、単なる技術的な取り組みではない。海外の半導体メーカー、特にアジアに拠点を置く半導体メーカーへの依存度を下げるという欧州の戦略の中核である。グローバルサプライチェーンの脆弱化が進む中、チップを国内で設計および製造する能力は、緊急性を帯びている。
Abella氏は、「欧州は、半導体のように重要なものを欧州以外の技術に頼っている場合ではない。経済的、技術的の両面において、自らの運命をコントロールする必要がある。AR2SECのようなプロジェクトは、そのための一歩である。自動車や航空宇宙などの業界がデジタル化するにつれて、安全で高性能なチップの必要性は高まる一方だ。AR2SECは、ここ欧州で独自のソリューションを開発することで、現在の課題に対処するだけでなく、将来の成長に向けて確固たるポジションの確立を目指している」と述べている。
Cazola氏にとって、このプロジェクトの重要性は、単なるチップ開発をはるかに超えたところにある。
「AR2SECが行っているのは、欧州の技術的未来の青写真を描くことだ。これは単にプロセッサに関することではなく、世界の舞台で競争できる技術的に独立した欧州の基盤を構築することだ」(Cazola氏)
【翻訳:田中留美/滝本麻貴、編集:EE Times Japan】
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