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AlNパワー半導体開発加速に弾み 電流輸送機構を解明理想的な特性示すSBDを作製

東京大学の研究グループと日本電信電話(NTT)は、窒化アルミニウム(AlN)系半導体を用いたショットキーバリアダイオード(SBD)を作製し、その電流輸送機構を解明した。今後、AlN系半導体を用いた低損失パワー半導体デバイスの実現に取り組む。

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優れた整流性を有するAlN系SBDの作製に成功

 東京大学大学院工学系研究科電気系工学専攻の前田拓也講師らによる研究グループと日本電信電話(NTT)は2024年12月、窒化アルミニウム(AlN)系半導体を用いたショットキーバリアダイオード(SBD)を作製し、その電流輸送機構を解明したと発表した。今後、AlN系半導体を用いた低損失パワー半導体デバイスの実現に取り組む。

 窒化アルミニウム(AlN)は6.0eVの大きなバンドギャップエネルギーを持つウルトラワイドギャップ半導体である。このため、AlN系パワー半導体デバイスを用いれば、電気自動車(EV)のモーター駆動や充電時における電力損失を大きく低減できる。ただ、電力変換などに応用する場合、トランジスタとダイオードが必要となる。NTTはこれまで、AlNトランジスタを開発してきたが、ダイオードについてはまだ実現されていなかった。

 今回は、NTTが低抵抗のオーミック電極形成技術および、リーク電流が小さいショットキー電極形成技術の開発し、ほぼ理想的な電流−電圧特性を示すAlN系SBDを作製した。具体的には、AlNトランジスタ作製で培ったSiドープ組成傾斜窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)層を利用する低抵抗オーミック電極形成技術を発展させた。これによって、接触抵抗を従来の10分の1以下に低減させた。

 また、AlN系半導体をドライエッチングする際のプラズマダメージを軽減した。これにより、AlNとショットキー電極間のリーク電流を抑制することができた。この結果、急峻な電流立ち上がり特性を示すなど、優れた整流性を有するAlN系SBDの作製に成功した。


左はAlN SBDの光学顕微鏡写真、右はデバイス構造の断面図[クリックで拡大] 出所:東京大学、NTT

 東京大学は、NTTが作製したAlN系SBDについて、電流−電圧特性や容量−電圧特性の測定と解析を行った。これにより、電流輸送のメカニズムがトンネル効果に起因した熱電子電界放出(TFE)であることを突き止め、ショットキー接触の特性を決める「障壁高さ」とその「温度依存性」について明らかにした。

 特に、容量特性の評価では極低周波(<10Hz)を用いることが重要であることを指摘した。電流輸送機構については、高い実効ドナー密度と大きな拡散電位によって、ショットキー界面に高電界が生じポテンシャル障壁が薄くなり、トンネル効果に起因したTFEが発現すると考えた。

 理論計算によりTFEによる電流値を求めたところ実験値とほぼ一致し、電流輸送機構がTFEであることを解明した。さらに、室温から300℃の広い温度領域で電流−電圧特性を測定し、障壁高さの温度依存性も明らかにした。

AlN系SBDの電気的特性を測定する様子
AlN系SBDの電気的特性を測定する様子[クリックで拡大] 出所:東京大学、NTT
AlN系SBDの順方向電流−電圧特性
AlN系SBDの順方向電流−電圧特性[クリックで拡大] 出所:東京大学、NTT

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