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半導体応用も可能な二硫化モリブデンナノリボンを合成水素発生で白金触媒の代替に(1/2 ページ)

九州大学や名古屋大学、東北大学らによる研究グループは、二硫化モリブデンの極細構造(ナノリボン)を、化学蒸着法により基板上へ高い密度で成長させることに成功した。このナノリボンは、水素発生で高い触媒活性を示し、電子移動度の高い半導体としても活用できることを示した。

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ナノリボンの「エッジ部」では「中心部」に比べ触媒活性が約100倍高い

 九州大学や名古屋大学、東北大学、筑波大学、大阪大学、産業技術総合研究所、京都大学および、熊本大学らの研究グループは2025年1月、二硫化モリブデン(MoS2)の極細構造(ナノリボン)を、化学蒸着法(CVD法)により基板上へ高い密度で成長させることに成功したと発表した。このMoS2ナノリボンは、水素発生で高い触媒活性を示し、電子移動度の高い半導体としても活用できることを示した。

 クリーンエネルギーの観点から、「水素」への期待が高まっている。水素と酸素の化学反応で発電したエネルギーを使って走行する燃料電池自動車もその1つである。水から水素を発生させるために現在は白金が用いられている。しかし、白金は高い触媒活性を示すものの、高価なことが課題であった。

 こうした中、白金に代わる水素発生反応(HER)の触媒として、MoS2など安価な「遷移金属ダイカルコゲナイド(TMD)」と呼ばれる二次元半導体シートが注目されている。TMDは厚みが原子3個分という薄さである。その上、優れた電気特性を示すという。

 研究グループは今回、原料としてMoO3と硫黄(S)を用い、CVD法によりアルゴンガスを流しながら、1100℃のサファイア基板上へ高密度のMoS2ナノリボンを合成することに成功した。

 走査型電子顕微鏡(SEM)で試料を観察したところ、サファイア基板上には数十ナノメートルから数百ナノメートルという幅の単層MoS2ナノリボンが、特定の一方向にそろって高密度に成長していることを確認した。

 合成したナノリボンを走査透過型電子顕微鏡(STEM)で観察したところ、欠陥がほとんどなく、単結晶のMoS2構造であり、そのエッジも比較的なめらかであることが分かった。

左はサファイア基板上に配向成長したMoS2ナノリボンのイメージ。中央は配向MoS2の電子顕微鏡写真。右は幅が10nmより細いMoS2ナノリボンの高分解電子顕微鏡像とそのモデル図[クリックで拡大] 出所:九州大学他
左はサファイア基板上に配向成長したMoS2ナノリボンのイメージ。中央は配向MoS2の電子顕微鏡写真。右は幅が10nmより細いMoS2ナノリボンの高分解電子顕微鏡像とそのモデル図[クリックで拡大] 出所:九州大学他

 研究グループは、配向したMoS2ナノリボンを、導電性のグラファイト基板の上に転写して電気化学的な触媒活性を測定した。走査型電気化学セル顕微鏡(SECCM)を用いて、HERの触媒活性サイトを可視化したところ、多くの水素が発生していることが確認できた。しかも、MoS2ナノリボンのエッジにおける触媒活性が高いことが判明した。電流値を詳しく解析したところ、ナノリボンの中心部に比べ、エッジでは100倍近い活性を示したという。

 さらに、細いリボンではエッジ/面積比が大きく、単位面積当たりのHER活性が高いことも分かった。エッジと中心部、グラファイト表面を比べても、HERを起こしやすいのはエッジであった。これらのデータから、エッジの割合が高いナノリボンが水素発生に適していることを実証した。

左上は電気化学反応に用いた3本のナノリボンの電子顕微鏡写真。右上は同じ位置のHER活性のマッピング像。下は異なる位置での電流プロファイル[クリックで拡大] 出所:九州大学他
左上は電気化学反応に用いた3本のナノリボンの電子顕微鏡写真。右上は同じ位置のHER活性のマッピング像。下は異なる位置での電流プロファイル[クリックで拡大] 出所:九州大学他

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