GPUの登場、チップレットの考案……半導体業界は2006年に動いた:現在に続く技術革新の始まり(2/3 ページ)
「ムーアの法則」の減速、GPUやチップレット技術の成長、クラウドコンピューティングの台頭など、現在の半導体業界の変化を推進する要素は、偶然ながら多くが2006年にそのきっかけを持つ。2006年に開発された技術や同年の出来事を振り返る。
カスタムAIアクセラレーターが誕生
GPUは、学習と推論においてはCPUより優れているが、特定のワークロードにのっとって設計し最適化されたデバイスは、CPUとGPUの両方をしのぐ性能を発揮できる。2000代初頭にIBMが発表したプロセッサ「Cell Broadband Engine(Cell)」とCaviumのセキュリティプロセッサシリーズは、最適化されたチップの先駆けとなった。
米マサチューセッツ工科大学(MIT)の学生だったBen Vigoda氏は、人工知能(AI)における確率コンピューティングの台頭に関する記事を読んだことがきっかけで、2006年にLyric Semiconductorを設立した。同社は確率計算に焦点を当てたデバイスを作ることで、ディープラーニングの推奨モデルや不正検出などのタスクのコストや消費電力、デバイスサイズを削減することを目標としていた。
同社は2010年にステルスモードから脱したが、2011年にAnalog Devicesに買収された。Googleは2006年に「Tensor Processing Unit(TPU)」のアイデアを検討し、2013年にそのコンセプトを前進させたが、Vigoda氏の発想はGoogleに先んじていたといえる。
そして時がたち、学習/推論向けカスタムAIアクセラレーター(XPU)は、半導体分野において最も急速に成長している領域の一つとなった。アナリストたちは「XPUはGPUと比べて消費電力量を20%以上削減できる。あるいは削減すべきだ」と主張している。Lyric Semiconductorは、ほぼ間違いなく2つの重要なアイデアを確立したといえる。1つ目は、AIには独自のチップアーキテクチャが必要であるという点。そして2つ目は、この分野の進展を加速させることができるのは、トランジスタ密度ではなくデバイス設計であるという点だ。
「チップレット」の概念が考案される
米カリフォルニア大学バークレー校のDave Patterson氏は、RISCのパイオニアであり、RAIDの開発にも貢献した人物だ。Patterson氏と同氏の研究室は、2006年に発表した論文の中で、「チップレット」という名称と概念を初めて公表した。チップレットは、多くの問題を解決する。巨大なモノリシックチップを、個々のシリコンピースが全体として機能するよう構成されたチップで置き換えることにより、新しいデバイスを市場投入する際のリスクやコスト、時間を削減することが可能だ。大型のモノリシックチップに対応するための製造装置一式の再調整も見送ることができる。
各メーカーはやがて、チップレットを使うことで自社の強みに集中できるようになるだろう。非常に優れたSerDesやメモリコントローラーを保有するメーカーは得意分野に集中し、それをチップレット全体の開発を手掛ける複数の設計メーカーに販売できるようになる。つまり、チップレットは高度な半導体開発の摩擦を大幅に軽減するのだ。
Marvell Technologyの共同創設者だったSehat Sutardja氏は「ISSCC 2015(国際固体素子回路会議)」において、チップレットを製造するための業界初となる商用プラットフォーム「MoChi」を発表し、そのすぐ後に、最初の商用利用可能なチップレットが登場した。
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