らせん磁性体の整流効果 「起源」を解明、磁気メモリ開発に弾み:「電子の流れる速さの違い」
東北大学と大阪大学、英国マンチェスター大学の研究グループは、らせん磁性体の整流効果について、その発現機構を解明した。これにより、らせん磁気情報の読み出し効率を最大化することが可能となり、らせん磁性体を用いた「キラリティ磁気メモリ」の開発に弾みをつける。
整流効果の起源は「電子の流れる速さの違い」と判明
東北大学と大阪大学、英国マンチェスター大学の研究グループは2025年1月、らせん磁性体の整流効果について、その発現機構を解明したと発表した。これにより、らせん磁気情報の読み出し効率を最大化することが可能となり、らせん磁性体を用いた「キラリティ磁気メモリ」の開発に弾みをつける。
らせん磁性体には、右巻き・左巻きの自由度(キラリティ)が存在し、各キラリティを「0」と「1」に対応させることで、新しい情報担体としての応用が期待されている。この情報を読み出す手段としては、整流効果(非相反電気伝導)が有効といわれている。らせん軸の方向に磁場を加えると、磁場と電流の向きが「平行」か「反平行」かによって電気抵抗が異なる効果で、キラリティが逆になると抵抗の低い電流方向が反転する。ただ、微視的な発現機構については、まだ十分に解明されていなかった。
研究グループは今回、比較的単純な電子状態を持つ半金属らせん磁性体「α-EuP3」をモデル物質として用い、らせん磁性の整流効果についてその起源を調べることにした。実験では、α-EuP3の単結晶をμmレベルに微細化し、高電流密度を用いて精密な電気伝導を測定した。
この結果、らせん磁性体に磁場を印加して円錐状の磁気構造になると整流効果が発現した。磁場をさらに強くして、磁気モーメントが完全にそろった強磁性状態になると、整流効果は消えた。第一原理計算による電子構造と比べても、円錐状の磁気構造において、電子の速さが方向によって異なることを確認した。これらのことから、整流効果の起源は「電子の流れる速さの違い」にあることを突き止めた。
今回の研究成果は、東北大学金属材料研究所のメイヨー アレックス浩特任研究員(日本学術振興会特別研究員PD)と小野瀬佳文教授、大阪大学大学院基礎工学研究科の石渡晋太郎教授、英国マンチェスター大学のMohammad Saeed Bahramy講師らによるものである。
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