窓に貼り付けるだけ ミリ波5Gのエリアを拡大する透明屈折フィルム:ダウンロード速度は最大2.7倍に
京セラは、基地局から送信される電波の進行方向を変えられる「透明メタサーフェス屈折フィルム」を開発した。この屈折フィルムを窓ガラスやアクリルスタンドに貼り付ければ、景観を損なわずにミリ波5Gなどのサービスエリアを拡大できるという。
ダウンロード速度は最大2.7倍、アップロード速度は5.2倍に
京セラは2025年2月、基地局から送信される電波の進行方向を変えられる「透明メタサーフェス屈折フィルム」を開発したと発表した。このフィルムを窓ガラスやアクリルスタンドに貼り付ければ、景観を損なわずにミリ波5Gなどのサービスエリアを拡大できるという。
5Gで用いられるミリ波(28GHz)帯や、6Gで検討されているさらに高い周波数の電波は直進性が強い。このため、基地局と端末間に障害物があったりすると、安定した通信品質が得られないなど課題があった。そこで京セラは、基地局から送信された電波の進行方向を曲げることができるメタサーフェス屈折板の開発に取り組んできた。
新たに開発した透明メタサーフェス屈折フィルムは、従来の基板タイプ屈折板と同様の高い電波屈折特性を維持しつつ、透明で薄くフレキシブルなフィルム型の形状とした。具体的には、「接着層」「メタマテリアル層」「保護層」の3層からなり、その厚みは約200μmである。
メタマテリアル層内の導体には透明電極を用いており、可視光透過率は80%以上と高い透明度を実現した。このため、窓ガラスなど貼り付ける構造物のデザイン性や景観を損なうことなく設置できるという。曲面構造への貼り付けも可能である。
しかも、屈折フィルムは製造後に希望するサイズにカットしたり、複数枚を並べて貼り付ければ面積を大きくすることもできる。屈折角度は0〜60度の範囲で選択でき、外形寸法や屈折角度が異なるフィルムを組み合わせれば、自由度の高いビーム設計が可能となる。
京セラは5G基地局を用い、開発した透明メタサーフェス屈折フィルムの実証実験を行った。基地局からは見通せず、受信電力が低い地点に端末を設置した。そして、窓ガラスに屈折フィルムを「貼り付けた状態」と「貼付前の状態」における伝送速度を測定した。この結果、屈折フィルムを貼り付けることでダウンロード速度が最大2.7倍に、アップロード速度が5.2倍に、それぞれ向上することを確認した。
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