新たな無線中継技術でミリ波エリアを効率的に拡大:KDDIと京セラが西新宿地区で実証
KDDIと京セラは、5G/6G(第5/第6世代移動通信)で提供予定のミリ波(28GHz帯)による通信サービスのエリアを、効率的に拡張できる「無線中継技術」を開発した。フィールド試験により、ミリ波の道路カバー率を従来の33%から99%まで高めることができることも確認した。
従来技術だと33%であったミリ波の道路カバー率を99%まで向上
KDDIと京セラは2024年12月、5G/6G(第5/第6世代移動通信)で提供予定のミリ波(28GHz帯)による通信サービスのエリアを、効率的に拡張できる「無線中継技術」を開発したと発表した。フィールド試験により、ミリ波の道路カバー率を従来の33%から99%まで高めることができることも確認した。
ミリ波帯による通信は、高速通信を可能にする半面、直進性が強いためビルなどの影響を受けやすく、Sub6(3.7G/4.5GHz)に比べ通信エリアが狭くなるなどの課題があった。また、ミリ波帯による従来の無線中継技術は、基地局から電波を受信するアンテナを「ドナー面」、増幅して送信するアンテナを「サービス面」とするなど、状況に応じてアンテナの役割や送受信方向の調整を行う必要があった。
新たに開発したミリ波帯の無線中継器は、各アンテナがドナー面とサービス面の両機能を備えている。この機能により、ミリ波基地局から受信したアンテナ面をドナー面として用い、それ以外のアンテナをサービス面として使えるよう、動的に切り替えることができる。この結果、中継器同士がメッシュ状につながり、自律的なエリア形成と効率的なエリア拡張が可能となった。
中継ルートの最適化も行った。複数の方向から受信するミリ波電波のうち、最も無線品質の良い中継ルートを選択し、メッシュ状のエリアを形成する。信号の劣化を検知すれば最適な中継ルートを自律的に選択し、瞬時に切り替えるという。
開発した中継器は、外形寸法が216×216×246mmと小型で、重さも4.9kgと軽い。従来の一般的なミリ波用基地局に比べ、大きさと重さを約7割も削減した。しかも、電源を供給するだけで動作するため、街路灯などへの設置も比較的容易に行える。
両社は、開発した中継器を東京都と新宿区が保有する街路灯などに22台設置。2024年10月より、ミリ波エリアの拡大効果などについて、実証実験を始めた。この結果、西新宿地区の約600m四方の範囲において、既存のミリ波装置では33%だった道路カバー率が、99%まで向上することが分かった。しかも、中継器から送信された電波は、同一基地局から送信される電波とは干渉しないことも確認した。実証試験は2025年3月末まで行い、2025年度の実用化を目指すことにしている。
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