放電レートはLi電池の100倍、BLE機器向け全固体電池:フランスItenが開発
フランスのITEN(アイテン)が、新しい全固体電池「Powency」を発表した。従来のリチウムイオン電池の100倍となる高い放電レートを実現しているという。まずはBluetooth Low Energy対応のIoT機器をターゲットとする。
フランスの全固体電池(SSB:Solid-State Battery)メーカーであるITEN(アイテン)は2025年4月初め、同社の新SSB「Powency」を発表した。「Powencyは、従来のリチウムイオン電池より100倍高い200Cの放電レートを実現し、エネルギーストレージに大きなブレークスルーをもたらす」と同社は主張している。これは、IoTやコネクテッドデバイスのBluetooth Low Energy(BLE)などの通信プロトコルを介したデータ伝送に必要な、短時間のバースト電流を供給する上で重要なバッテリー指標である。
ITENのCEOを務めるVincent Cobee氏は米国EE Timesとのブリーフィングで「当社のバッテリー技術は、ナノ材料に関する10年以上の開発作業に基づいている。同技術は認定を受けており、完全な製造プロセスが整っている」と語った。
Cobee氏は「Powencyは主にコネクテッドデバイス向けで、既にさまざまな業界の100社以上の顧客にサンプルを提供している。2025年後半に本格的な生産を開始できる予定だ。フランス・ダルディリーにあるパイロットラインは、年間3000万個以上のバッテリー生産能力があり、2028年までに大容量の製造施設を立ち上げる計画も進行中だ」と述べている。
表面実装型のSSB技術は、ITENのナノ材料に関する専門知識に基づいており、特許取得済みのメソポーラス構造を特徴とするフルセラミック電極設計によって、比表面積を大幅に向上させた。このスケーラブルな技術は、電力密度、充電速度、安全性、信頼性を兼ね備えている。
200Cの放電レートは、ワイヤレスセンサーアプリケーションの急速なエネルギーバースト供給に適している。この放電レートは、フットプリント18mm2、150μAhモデルのPowencyで実証されていて、50ミリ秒のパルス長で30mAのピーク電流能力に相当する。これは、一般的な放電レートが2〜5Cで高出力アプリケーションの対応能力が制限される従来のリチウムイオン電池とは対照的である。ITENによると、同社独自のSSB技術はこの制約を克服し、エネルギーハーベスターと組み合わせることで理想的なエネルギーバッファになるという。
SSBはこの電力密度特性によって、資産追跡、スマートホームやスマートビル、スマート農業、計測、遠隔操作、ワイヤレスセンサーなどのアプリケーションに即時に電力供給できる。
Cobee氏は「固体技術の使用によって、Powencyバッテリーは−20℃で少なくとも容量の50%を保持できる」と付け加えた。これに対し、従来のリチウムイオン電池では通常、容量の80〜90%が失われてしまうという。SSBはサイクル寿命が長く、70℃/放電深度100%で、最大250サイクルの使用が可能。迅速に充電でき、通常6分で80%の容量に達するという。
Cobee氏によれば、同社のSSBはバースト放電と急速充電が可能だという。BLEで通信するセンサーの場合、これは100μAhの電力を供給できることを意味するが、ウェアラブルやスマートウォッチなどでは最大数百ミリアンペアアワーの電力を供給できることになる。
ITENは約100人の従業員を擁し、フランス・リヨン北部に拠点を置く。これまでに約8000万米ドルの資金を調達している。Cobee氏は中長期的な見通しについて「2026年末あるいは2027年初頭には収益が黒字化する見込みだ。2028年までにウェアラブル市場に参入する予定だ」と語った。
【翻訳:滝本麻貴、編集:EE Times Japan】
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
1インチサイズの全固体電池を10秒で作製 レーザーで加工
長岡技術科学大学は、レーザーによる造形技術を用い、室温かつ低拘束圧の環境で充放電を行うことができる「全固体ナトリウム電池」を開発した。75% DODで2000サイクル使用できる超小型全固体電池
フランスの小型電池メーカーITEN(アイテン)は、「EdgeTech+ 2023」(2023年11月15〜17日/パシフィコ横浜)に出展し、超小型の全固体電池を展示した。長寿命が特長で、75% DOD(放電震度)で2000サイクル使用できるという。電極に「隙間」構築 リチウム空気電池の出力電流を従来比10倍に
物質・材料研究機構(NIMS)は成蹊大学との共同研究により、リチウム空気電池の高出力化に成功した。カーボンナノチューブ(CNT)からなる高空隙の電極を開発したことで、出力電流を従来に比べ10倍も向上させた。放電を防ぐ絶縁タブが不要に、Nordic初の一次電池用PMIC
Nordic Semiconductorはドイツ・ニュルンベルクで開催された組み込み技術の展示会「embedded world 2025」に出展し、同社初となる一次電池用PMIC「nPM2100」のデモを公開した。2035年が節目となる海外のモビリティー(自動車)向け環境規制
前回に続き、「第2章第4節(2.4) モビリティー」の第1項、「2.4.1 世界に於けるEVの潮流」の後半部を紹介する。