講演会場が静まり返った――中国が生み出した衝撃のトランジスタ構造:湯之上隆のナノフォーカス(82)EE Times Japan20周年特別寄稿(3/7 ページ)
EE Times Japan 創刊20周年に合わせて、半導体業界を長年見てきたジャーナリストの皆さまや、EE Times Japanで記事を執筆していただいている方からの特別寄稿を掲載しています。今回は、独自視点での考察が人気のフリージャーナリスト、湯之上隆氏が、2025年の「VLSIシンポジウム」で度肝を抜かれた中国発の論文について解説します。
SamsungのGAAの発表
Special Workshopの6番目は、SamsungのY.Y. Masuoka氏による「GAA “G”enuine “A“rchitecture for “A”I generation」というタイトルの発表であった。最初にこのタイトルを見たときは、「GAAのややこしいアーキテクチャの話か?」と訝しく思ったが、これはユーモアに富んだ語呂合わせであった。
Masuoka氏は、半導体産業においてGAAがいかにして新たな時代を切り開いてきたかを、非常に分かりやすく、かつ興味深く解説した。
Masuoka氏の調査によれば、VLSIシンポジウムでは、2002年に初めてGAAに関する発表が行われた(図2)。その後、GAA関連の発表件数は増減を繰り返したが、2020年以降は右肩上がりに増加し、2022年にはSamsungがGAAを搭載したロジック半導体の量産を開始した。さらに2025年には、TSMCやIntelもこれに続く見込みである。

図2 2002年にGAAの論文が発表されてから20年で量産へ[クリックで拡大] 出所:VLSIシンポジウム2025、Special Workshop、Y.Y.Masuoka(Samsung)、“GAA “G”enuine “A“rchitecture for “G”I generation”のスライド
このGAAの利点をSRAMで検証した結果が図3である。この図に示されているように、テクノロジーノードの進展に伴い、SRAMの集積度は各世代で1.5〜2倍に向上させる必要があるが、FETをプレーナ型からFinFETへ、そしてGAAへと移行することにより、SRAMセル高さを縮小できると同時に、トランジスタのWeff(有効チャネル幅)を増大させることができる。その結果、FinFETからGAAに切り替えることによって、SRAMの集積度を約20%向上させることが可能となる。
Masuoka氏は、このスライドの結論1として、「GAA is MUST for Scaling!(スケーリングにはGAAが不可欠!)」と述べた。

図3 Conclusion-1、GAA is MUST for Scaling ![クリックで拡大] 出所:VLSIシンポジウム2025、Special Workshop、Y.Y.Masuoka(Samsung)、“GAA “G”enuine “A“rchitecture for “G”I generation”のスライド
GAAはMUSTでREAL!
続いてMasuoka氏は、トランジスタ構造をFinFETからGAAへと移行することにより、SRAMのパフォーマンスを20%以上向上させ、ローカルミスマッチを10%以上低減し、スタンバイリーク電流を30%以上削減できることを示した(図4)。つまり、GAAを採用することによって、PPA ( Power(消費電力)、Performance(性能)、Area(面積))の全てを向上させることが可能となるというわけだ。
Masuoka氏は、このスライドにおける結論2として、「GAA is MUST for PPA Enhancement!(GAAはPPA向上に必須!)」と論じた。

図4 Conclusion-2、GAA is MUST for PPA Enhancement ![クリックで拡大] 出所:VLSIシンポジウム2025、Special Workshop、Y.Y.Masuoka(Samsung)、“GAA “G”enuine “A“rchitecture for “G”I generation”のスライド
さらにMasuoka氏は、2022年にSamsungが世界で初めてGAAを搭載したロジックの量産を開始し、2025年にはTSMCとIntelがそれに続く見込みであり、2027年にはRapidusもGAAの量産を計画していることを述べた。そして、結論3として、「Now GAA is in REAL!(今やGAAは現実のものとなった!)」と結んだ(図5)。
Masuoka氏は、最終的な結論として、GAAが今後の100年に向けた重要な転換点となるとし、「GAA to lead another Miracles!(GAAが新たな奇跡を導く!)」と力強く述べた(図6)。

図5 Conclusion-3、Now GAA is in REAL ![クリックで拡大] 出所:VLSIシンポジウム2025、Special Workshop、Y.Y.Masuoka(Samsung)、“GAA “G”enuine “A“rchitecture for “G”I generation”のスライド

図6 Conclusion、GAA to lead another Miracles![クリックで拡大] 出所:VLSIシンポジウム2025、Special Workshop、Y.Y.Masuoka(Samsung)、“GAA “G”enuine “A“rchitecture for “G”I generation”のスライド
そして最後に、「“G”reat thanks to “A”ll “A”udiences!!!」という見事な語呂合わせの謝辞で締めくくり、聴衆から大きな拍手を浴びた。
このように、約20年の歳月を経て、EE Times Japanの20周年と歩調を合わせるかのように、GAAの時代がいよいよ幕を開けた。では、GAAの次には何が来るのだろうか?
その有力な候補の一つとして、北京大学(Peking University)のHeng Wu教授が発表した「Flip FET」が大きな注目を集めた。しかし、その説明をする前に、少し話が脇道にそれるが、今回のVLSIシンポジウムでは「中国旋風」が吹き荒れたことに触れておきたい。
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