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講演会場が静まり返った――中国が生み出した衝撃のトランジスタ構造湯之上隆のナノフォーカス(82)EE Times Japan20周年特別寄稿(2/7 ページ)

EE Times Japan 創刊20周年に合わせて、半導体業界を長年見てきたジャーナリストの皆さまや、EE Times Japanで記事を執筆していただいている方からの特別寄稿を掲載しています。今回は、独自視点での考察が人気のフリージャーナリスト、湯之上隆氏が、2025年の「VLSIシンポジウム」で度肝を抜かれた中国発の論文について解説します。

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FETの発明と進歩の歴史

 FETとは、半導体内部に発生する電界によって電流を制御するトランジスタである。この基本原理は、1925年に米国の物理学者Julius Edgar Lilienfeldによって発明され、特許申請された。しかし、当時の技術水準では実現が困難であり、このアイデアは長らく実用化されることはなかった。

 それから約35年後の1960年、米Bell Lab.のMartin AtallaとDawon Kahngが、MOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)を発明し、世界で初めてその動作に成功した。このMOSFETは、その後の半導体産業の発展における礎となり、集積回路の飛躍的進化を支える基盤技術となった。

 MOSFET技術はその後も進化を続け、1971年には米Intelが電卓用にPMOS技術を用いた「4004」プロセッサを発表した。続く1972年にはNMOS技術を用いた「8008」プロセッサが登場し、より複雑な演算処理が可能となった。

 ただし、「4004」は正孔をキャリアとするPMOS構造であったため動作速度が遅く、一方「8008」は電子をキャリアとするNMOS構造で高速動作が可能であったが、消費電力の大きさが課題であった。

 この課題に対して注目されたのが、PMOSやNMOSよりも早い1963年に、米RCA社のFrank Wanlassが発明したCMOS(Complementary MOS)技術である。CMOSは、PMOSとNMOSを対にして組み合わせることにより、低消費電力・高速動作・高集積化を同時に実現可能にする技術である。CMOS発明の当初は、製造の複雑さからあまり使われなかったものの、やがてその真価が見直されることになる。

「CMOSの再発明」からFinFETやGAAの時代へ

 1980年代に入り、VLSI(超大規模集積回路)時代の到来とともに、CMOSは主役へと躍り出た。言い換えれば、「CMOSの再発明」がなされたことにより、半導体技術は飛躍的な進化の転機を迎えたのである。なぜなら、CMOS回路の微細化によって、高速化・低消費電力化・高集積化の全てを同時に達成できるからである。

 この進化の理論的な裏付けとなったのが、1974年にIBMのRobert H. Dennardが提唱した「スケーリング則(Dennard Scaling)」である。デナードは、トランジスタの寸法や電圧を一定の比率で縮小すれば、動作速度などの性能を向上させつつ、消費電力も抑えられることを示した。

 それ以降、半導体産業はこの「スケーリング則」に従って微細化の道を突き進んできた。しかし、2000年代中旬以降、この法則は物理的・電気的限界に直面することになる。微細化を進めても、それに比例して動作速度が向上しなくなったのである。

 この課題を克服するため、業界は新たな技術を模索し続けてきた。2011年には、Intelが3次元トランジスタであるFinFETを用いたプロセッサの量産に成功した。さらに2022年には、Samsung Electronicsが世界に先駆けて3nm世代のプロセスにGate-All-Around(GAA)構造を採用したロジック半導体の量産を開始した。そして2025年には、TSMCが2nmプロセスで、Intelが「18A」プロセスで、これに続こうとしている。

 このように、2025年は、新たなトランジスタ構造「GAA」が本格的に花開く年となる。以下では、このGAAがどのような歴史的経緯を経て現在に至ったのかについて、詳しく論じる。

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