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まるで「ぬかにクギ」 AIチップ規制で米国が抱えるジレンマ対中戦略の効果は?(1/2 ページ)

AI用半導体をめぐる米中の対立は深刻化している。米国は戦略を再調整し、台湾もHuaweiとSMICに対し新たな措置を発表した。だがこうした戦略は、中国の半導体業界に“大きな打撃”を与えることにはならないだろう。

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 AI用半導体をめぐる米中間の技術競争は一触即発状態で、米国の戦略の再調整や、違法貿易の継続的な課題、米国主導の規制に対する台湾の連携強化など、重要な新たな局面を迎えている。

 米商務省高官による最近の声明や、広範囲にわたる半導体の密輸に関する憂慮すべき報告、台湾の戦略的な動きは、多くの人がゼロサム競争と見なす世界的な技術覇権争いにおける国家安全保障上の複雑な利害関係を浮き彫りにしている。

商務省産業安全保障担当次官のJeffrey Kessler氏
商務省産業安全保障担当次官のJeffrey Kessler氏 出所:商務省

 商務省産業安全保障担当次官のJeffrey Kessler氏は2025年6月、中南アジアに関する下院外交小委員会での証言で、米国の新たな方針を明確に述べた。

 Kessler氏は「産業安全保障局(BIS)2026年度予算:輸出管理とAI軍備競争」と明示された公聴会で、2つのメッセージを伝えた。同氏は、成功を予想すると同時に、執行財源の大幅な増額を正当化した。

 同氏は、Huaweiの2025年のAIチップ生産能力について「20万ユニット以下」という具体的な見積もりを示し、「そのほとんど、もしくは全てが中国国内の企業向けである」と述べた。同氏は「この数字は、厳格な輸出管理が中国の生産能力の制限において意図した効果を発揮していることの表れである」と述べた。

 ただし、すぐに、この評価に対して次のように補足している。「中国は、AIチップの生産能力と、生産するチップの性能の向上に膨大な資金を投入している。中国が急速に追い付いていることを理解し、誤った安心感を抱かないことが重要だ」

 さらに、「中国はこれらの先進チップの生産量が比較的少ないという事実に、あまり安心すべきではない。中国がグローバルな野心を持っていることは間違いない」と付け加えた。

 このメッセージは、この課題の動的な特性を強調するとともに、BISの執行予算を133%増額する提案の根拠を示している。Kessler氏は「長期的な脅威に対応するために、予算の増額は必要だ」と主張した。

 Kessel氏がメッセージを発信したタイミングは戦略的だった。新アメリカ安全保障センター(CNAS)がAIチップの大規模な密輸を報告した翌日だったことで、同氏の要請が外部から裏付けられる形となった。

横行するチップの密輸

 米国政府が中国による高度なAI技術へのアクセスを制限しようと努力しているにもかかわらず、依然として重大な脆弱性が残っており、大規模なチップの密輸が行われている。CNASの報告書によると、2024年だけで14万もの先進AIチップが違法ルートで中国に供給された可能性があり、これは米国の政策目標を「著しく損なう」規模だという。

 こうした密輸の蔓延(まんえん)は、執行上の重大な穴を露呈しており、BISが問題に対処するための「深刻なリソース不足」に陥っていることを示唆している。2024年に報告されたわずか3件の密輸事件の推定利益だけで、BISの年間執行予算を上回っていることからも、この課題の規模の大きさが浮き彫りになっている。

 密輸業者は、海外のダミー会社を利用したり、高価値の半導体出荷品をお茶や玩具などの輸出規制に該当しない商品に偽装したりといった、単純ながらも効果的な手口で摘発を逃れている。

 こうした違法取引の証拠は容易に入手可能で、中国のマーケットプレースでは輸出規制チップのオンラインリストへの掲載が132件確認されている。密輸の蔓延は、米国の将来的な戦略が「規制の法的枠組みだけでなく、グローバル貿易の物理的、物流的な現実にも対処しなければならない」ことを示唆しており、「より積極的で情報主導の執行」への転換が求められている。

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