まるで「ぬかにクギ」 AIチップ規制で米国が抱えるジレンマ:対中戦略の効果は?(2/2 ページ)
AI用半導体をめぐる米中の対立は深刻化している。米国は戦略を再調整し、台湾もHuaweiとSMICに対し新たな措置を発表した。だがこうした戦略は、中国の半導体業界に“大きな打撃”を与えることにはならないだろう。
台湾による新たな規制
米国主導の輸出管理体制を強化する重要な動きとして、台湾は先週、Huawei Technologies(以下、Huawei)とSMICを「戦略的ハイテク商品エンティティリスト」に追加した。
この決定は、HuaweiとSMICが台湾企業から重要な半導体技術を取得することを直接禁止し、NVIDIAのような米国の半導体メーカーに対抗するという中国の野心を阻むものである。
台湾の措置は「既存の抜け穴をさらに厳しく締め付け、エンティティリストに掲載されている中国企業と台湾企業の協力を抑制する」ことを目的としており、米国が既に課している一連の輸出禁止を補完するものである。
この動きは、HuaweiやSMICの半導体製造の進展に台湾企業が支援を提供する可能性に対する懸念を反映したもので、米国の輸出規制に政策を合わせるようにパートナーに対して圧力をかける米国の広範な戦略の一環でもある。
中国企業に「打撃」与えられず
こうした規制にもかかわらず、台湾の新ルールがHuaweiやSMICにすぐに「大きな打撃」を与えることはないと思われる。それは主に、これらの企業が「以前の規制下で既に大きな制約に直面しており、生産拡大に苦戦している」ためだ。台湾の禁止措置はむしろ、中国が高度な半導体技術を獲得するための残された道を閉ざすことを目的とした「重要な強化策」である。
米国の調査会社であるRhodium Groupのディレクターを務めるReva Goujon氏は国際政治経済ジャーナル『Foreign Affairs』誌で「中国は、米国が課した半導体生産の制約を乗り越えるために、潤沢な国家資金を投入している。AI開発は、『大規模モデルを学習させるための計算能力の最大化』から、『事前学習済みモデルに、より高度な応答を生成させる最適化』へと移行している」と述べている。
スペインのシンクタンクであるエルカノ王立研究所のシニアリサーチフェローであるAndres Ortega氏は「競争の激化により、世界は2つの異なる、ますます互換性のない技術エコシステムに向かうことを余儀なくされ、企業や国家はどちらの陣営に合わせるかを選択せざるを得なくなっている」と書いている。
Huaweiは「制限されている米国製GPUに代わる国産の代替品として、独自の『Ascend』シリーズのAIチップの開発に多額の投資を行ってきた」
中国のチップは「米国のチップより1〜2年遅れている」ものの、中国はこの差を埋めるために巨額の投資をしている。SMICが製造するHuaweiの「Ascend 910C」プロセッサは「NVIDIAの『H100』および『A100』チップとほぼ同等に進んでいる」が、中国の生産はTSMCほど効率的ではない。
この自給自足への断固たる取り組みは、米国の政策にとって重大な「戦略的ジレンマ」を呈している。政策は技術的優位性の維持を目指す一方で、中国において完全に独立した、潜在的に強力な競争相手を生み出すことを加速させている。長期的には、米国は中国において、もはや米国の影響力に左右されないテクノロジーエコシステムを育成する可能性がある。
【翻訳:滝本麻貴、編集:EE Times Japan】
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