SynopsysのAnsys買収がようやく完了、統合後の戦略とは:Synopsys Shankar Krishnamoorthy氏(2/2 ページ)
SynopsysによるAnsys買収がようやく完了した。このM&Aにより、Synopsysのソリューションにはどのような変化が起こるのか。
今回の買収で期待される変化
両社は既に、数年間にわたりパートナーとして協業してきたが、今回AnsysがSynopsysの傘下に入ったことで、どのような変化が起こるのだろうか。Krishnamoorthy氏は「われわれには、パートナーとして連携してきた強力な協業体制がある」と述べている。しかし現実には、半導体/システム設計における問題が大幅に複雑化している。同氏は、例として3D-IC設計を取り上げ、機械的ストレス解析や熱ストレス解析、電力解析などをはじめ、複数のベクトルに対応しなければならないという点を強調した。
「マルチフィジックスシミュレーションと、電子設計シミュレーション、検証とを融合する必要があるが、そのためにパートナーとしてできることには限りがある。しかし今や、われわれは1つの企業として、より深いレベルでネイティブエンジンを統合し、顧客の設計上の課題をもっと影響力のある方法で解決できるようになる」(Krishnamoorthy氏)
「われわれはこの18カ月間、そのための製品ロードマップを準備してきた。そして買収取引が完了した今、その実現に向けて注力していく。2026年前半には、最初の製品を提供できる見込みだ。既に、特定の顧客企業との間でロードマップを共有しており、この先数カ月間、引き続き共有していくつもりだ。このロードマップには、現在の多くの課題への対応が含まれており、例えば2D設計のAIチップのパワーインテグリティや、3D-ICパッケージレベルの検証(Verification)および妥当性確認(Validation)、高速アナログシステム設計などが挙げられる。対応を検討している問題としては「3D-ICサインオフはどのようなものになるのか」「そのフローを定義することができるのか」といった点がある。
Krishnamoorthy氏は「業界で対応すべき重要なテーマは、設計の複雑さと、開発者の製品ロードマップのターゲットが縮小していること(例えばNVIDIAのようなメーカーは、年1回の頻度で新製品を投入しようとしている)の両面において、半導体設計が極端に複雑であるという点だ。業界がシリコンエンジニアリングに影響を与えてきたのと同じ方法で、システムエンジニアリングにも影響を与えることを目指していく」と述べる。
これについては、Sassine Ghazi氏がブログで詳しく説明していて、「製品は、学習や推論、協調、適応、行動が可能なインテリジェントシステムへとさらなる進化を遂げている。これらのインテリジェントシステムは、手術ロボットや工場用ロボット、自律型ドローン、電気自動車、最先端データセンターなど何であれ、シリコンを搭載し、ソフトウェア定義され、AIが組み込まれている。エンジニアリングチームは、イノベーションのペースが加速する中、かつてないほど複雑化する設計とコスト圧力の問題に直面している。こうした課題を乗り越えるには、製品の設計方法を見直さなければならない」と述べている。
さらにGhazi氏は「製品は、ますますマルチドメインシステムになってきている。それをうまく構築するためには、あらゆるレベルで全ての部品を最初から正しく設計しなければならない。エンジニアは、エレクトロニクスと物理特性をより深く統合し、AIを活用した新たな設計ソリューションを必要としている。Ansysが傘下に入ったことで、ソフトウェアにおけるイノベーションを実現するための、業界で最も包括的なソリューションを提供できるようになるだろう」と付け加えた。
【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】
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