買収を重ねたSynopsys なぜ今ソフトウェアセキュリティ事業を売却するのか:今後はEDA/IP事業が柱に
Synopsysが、ソフトウェア開発者向けのアプリケーションセキュリティテスト事業を売却すると発表した。M&Aを重ねてアプリケーションセキュリティテスト事業を成長させてきたにもかかわらず、同事業の売却に至ったのはなぜなのか。
Synopsysは2024年5月6日、ソフトウェア開発者向けのアプリケーションセキュリティテストを専門とする同社のソフトウェアインテグリティグループ(SIG)を、プライベートエクイティ企業であるClearlake Capital GroupとFrancisco Partnersに最大21億米ドルで売却すると発表した。
M&Aで育てたアプリケーションセキュリティテスト事業
Synopsysは、2014年にソフトウェアテストを手掛けるCoverityを買収して以来、アプリケーションセキュリティテスト事業を大きく成長させてきた。2015年にはソフトウェアセキュリティ企業のCodenomiconを、2017年にはオープンソースセキュリティベンダーのBlack Duck Softwareを買収した。2021年6月にはアプリケーションのセキュリティリスクマネジメントを手掛けるCode Dxを買収し、2022年には本番環境におけるWebアプリケーション向けの自動保護機能を提供するためにWhiteHat Securityを買収している。
Synopsysはこのようにして、長年にわたってアプリケーションセキュリティテスト事業を大きく成長させ、同市場における主要プレーヤーの1社となった。それにもかかわらず、なぜ同事業を売却するに至ったのだろうか。
まず、同市場は非常に競争が厳しく、Synopsysの利益率はここ数年間減少し続けている。そしてさらに重要な点として、SynopsysはEDAとIP(Intellectual Property)事業に一層力を入れている。このことから、アプリケーションソフトウェア事業からの撤退は理にかなっていると言えそうだ。
今後はEDA事業を中核に事業拡大か
Synopsysは2024年3月、セキュリティIPベンダーであるIntrinsic IDの買収を発表した。Intrinsic IDはシステムオンチップ(SoC)設計に物理複製困難関数(PUF:Physically Unclonable Function)を組み込んでセキュリティ機能を実現するIPを有している。その数カ月前に当たる2024年1月には、シミュレーションソフトウェアに特化したEDAメーカーであるAnsysの買収を発表したことが話題を呼んだ。こうした動きからSynopsysは、中核となるEDA事業を、成長著しい隣接市場へと拡大していくのではないかと期待されている。
Synopsysが1四半期の間にAnsysとIntrinsic IDの買収を発表し、同社が「EDA業界の巨人」への道を進んでいるという雰囲気が広がった。しかし、同社がアプリケーションセキュリティテスト事業を売却するというニュースからは、Synopsysが綿密な計画を練っていること、そしてEDAとIP事業が同社の将来のロードマップを定義するであろうことが読み取れる。
2023年11月、Synopsys CEO(最高経営責任者)のSassine Ghazi氏は投資家に対し、「デザインオートメーションやデザインIP事業などのわれわれの幅広い事業ポートフォリオのうち、90%以上はROI(投資利益率)が高いと考えている」と語った。今回買収が決定したアプリケーションセキュリティテスト事業のようなソフトウェアサービス事業は、明らかに残りの10%に該当する。売却先であるプライベートエクイティ企業は2024年、同社のこうした事業をより詳しく調査することになりそうだ。
【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】
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