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チップ分解で20年をたどる 「万華鏡」のように変化し続ける半導体業界この10年で起こったこと、次の10年で起こること(95)EE Times Japan20周年特別寄稿(2/5 ページ)

EE Times Japan 創刊20周年に合わせて、半導体業界を長年見てきたジャーナリストの皆さまや、EE Times Japanで記事を執筆していただいている方からの特別寄稿を掲載しています。今回は、最新チップの分解と鋭い分析が人気のテカナリエ代表取締役CEO、清水洋治氏が、分解を通してみてきた半導体業界20年の大きな変化を語ります。

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中国製SoCの台頭と米国半導体メーカーの決断

 図2は左が2010年前後に一気に世界市場に躍り出てきた中国半導体メーカーのSoC(CPU+GPU+Video)の一部である。他にもたくさんの中国製SoCが市場を席捲(せっけん)した。MP3プレーヤー、ポータブルビデオなど2010年には既に日本でも廉価機器は中国半導体だらけであった。

<strong>図2:2010年代に中国半導体は大躍進を遂げた</strong>[クリックで拡大] 出所:テカナリエレポート
図2:2010年代に中国半導体は大躍進を遂げた[クリックで拡大] 出所:テカナリエレポート

 そして、こうした状況を最も分かっていたのは米メーカーだった。TIは2007年に先端半導体のプロセス開発を撤退し、台湾委託を明確にし、その後携帯電話ではNo.1シェアを持っていたモバイルプロセッサ「OMAP」の開発もストップしている。日本メーカーは同じ判断をTIよりも、数年遅れて下したが、その数年の遅れはその後致命傷になった。図2右は2025年現在の中国SoCのほんの一例だ。RISC-Vコアを搭載するもの、最新メディア機器に採用されるものなど市場は確実に広がっている。中国SoCには15年以上の経験蓄積があり、昨日今日で突如生まれたわけではない。AIに特化したSoC、サーバ向けのメニーコアSoCを手掛けるものなど、中国半導体は難易度の高い領域に確実に移っている。

 図3は過去20年で最も躍進した半導体メーカー、MediaTekの足跡の一部である。米Analog Devicesは上記TIのように中国メーカーSoCや携帯電話の台頭を鑑み、携帯事業から2000年代後半に撤退、その際にRF事業をMediaTekに売却している。MediaTekはAnalog DevicesからRF事業を手に入れ、大々的に携帯事業を拡大し、山寨手機ブームで大きなパイを手に入れている。2012年には当時TV用SoCで世界No.1シェアを持つ台湾MSTARを買収し、No.2であった自身のシェアと合わせてダントツNo.1の地位を築いた。Android TVの普及前に準備を整えていたわけだ。

図3:M&Aで機能を強化し、規模の拡大を加速させた
図3:M&Aで機能を強化し、規模の拡大を加速させた[クリックで拡大] 出所:テカナリエレポート

 現在も半導体メーカーのM&Aは活発だが、現在の基礎となるM&Aは2010年前後に行われていたものも多い。自社技術だけでは立ち行かなくなったのが、この20年の特徴でもある。そのため足りないもの、自社の弱いものは、次々とM&Aの対象となっている。社内育成よりも、買収という“時間を金で買う手法”が加速しているのが、この20年の大きな変化といえるだろう。

チップセットが登場、「システム」が競争軸に

 図4は過去20年で大きく変化した項目の1つだ。アナログが得意、メモリが得意など各社にはコアコンピタンスがあるものの、アナログだけ、メモリだけではシステムは作れない。デジタル、アナログ、メモリ、センサーなどを組み合わせ、そこにソフトウェアを実装してシステムは完成する。スマートフォンの普及ではCHIPSET構成が勝敗を分けた。複数の会社からチップを買ってきて、システムメーカーが作り上げる方法では不具合のあった場合の手戻りが大きい。QualcommやHUAWEIはプロセッサ、通信、電源などを組み合わせたCHIPSETを開発し、1社で完成システムまで作り上げた。この方式は現在ではそのまま高機能ドローンや車載インフォテインメント(IVI)システム、最新のロボティクスにも採用されている。過去20年間の一番の変化はQualcommやNVIDIAが単体のチップ性能で競うのではなく、CHIPSETやメモリメーカーとの連携、独自インタフェースの開発などシステム全体性能を競争軸にしたことにあるというわけだ。

<strong>図4:HuaweiやQualcommのチップセット</strong>[クリックで拡大] 出所:テカナリエレポート
図4:HuaweiやQualcommのチップセット[クリックで拡大] 出所:テカナリエレポート

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