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室温動作の共鳴トンネルダイオードを試作IV族混晶半導体のみでDBSを形成(1/2 ページ)

名古屋大学は、IV族混晶半導体のみで高品質の二重障壁構造(DBS)を形成する技術を開発した。この技術を用い、テラヘルツ(THz)発振に必要な共鳴トンネルダイオード(RTD)を試作し、室温(300K)での動作実証に成功した。

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安価で環境に優しいテラヘルツ帯半導体デバイスなどを創出へ

 名古屋大学大学院工学研究科の柴山茂久助教、鳥本昇汰博士前期課程学生、石本修斗博士前期課程学生(当時)、中塚理教授らによる研究グループは2025年8月、IV族混晶半導体のみで高品質の二重障壁構造(DBS)を形成する技術を開発したと発表した。この技術を用い、テラヘルツ(THz)発振に必要な共鳴トンネルダイオード(RTD)を試作し、室温(300K)での動作実証に成功した。

 研究グループはこれまで、低価格で無毒のIV族元素で構成されるゲルマニウムスズ(GeSn)とゲルマニウムシリコンスズ(GeSiSn)といった、IV族混晶半導体のみでDBSを形成するための技術を開発してきた。これまで試作したRTDの動作温度は10Kであったが、共鳴トンネル電流に由来する負性微分抵抗(NDR)の発現を確認していた。

 これらの研究成果を踏まえ、今回は動作温度の向上などに取り組んだ。GeSnとGeSiSnからなるDBSを形成するため、分子線エピタキシー(MBE)法を用いた。Ge(001)基板上にGeSn/GeSiSnのDBSを疑似格子整合させるため100℃という低温で結晶成長を行い、高い結晶・界面品質を実現したという。

GeSnとGeSiSnからなるDBSのエネルギーバンド構造(左上)と、結晶成長した試料の断面構造模式図(左下)。
GeSnとGeSiSnからなるDBSのエネルギーバンド構造(左上)と、結晶成長した試料の断面構造模式図(左下)。右は試作したRTDの10Kにおける電流密度−電圧(J-V)特性[クリックで拡大] 出所:名古屋大学

 今回の実験では、成長時の温度に加えH2ガス導入の有無など、条件を変えて3つの試料を作成した。その試料とはGeSn/GeSiSn 層の全てにH2ガスを導入した「H2All」、H2ガスを導入しなかった「w/o H2」および、GeSn層にのみH2ガスを導入した「H2GeSn」である。H2ガスの分圧は約10-2Paとした。

 試料の断面構造を走査型電子顕微鏡(STEM)で観察したところ、GeSn成長中にのみH2ガスを導入した場合、GeSnとGeSiSnが層状に成長し、界面で発生する層間ミキシングを抑えられることが分かった。一方、GeSiSn層にH2ガスを導入すると島状に成長するため、GeSn/GeSiSnの品質劣化につながることが明らかとなった。

作製したDBSの断面構造模式図
作製したDBSの断面構造模式図[クリックで拡大] 出所:名古屋大学
条件を変えて作製した3試料のHAADF-STEM像
条件を変えて作製した3試料のHAADF-STEM像[クリックで拡大] 出所:名古屋大学

 研究グループは、GeSn層にのみH2ガスを導入して作製したGeSn/GeSiSn DBSを用いてRTDを試作、10〜300Kの温度範囲で電流密度−電圧(J-V)特性を評価した。この結果、300Kを含むさまざまな温度において、約2Vの電圧位置でNDRが発現した。特に、200Kでは行きと帰りの掃引でNDRが発現することを確認した。

H2Allの試料を用いて作製したRTDのJ-V特性
H2Allの試料を用いて作製したRTDのJ-V特性[クリックで拡大] 出所:名古屋大学

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