トランプ関税は「深刻な自滅行為」、最も得をするのは中国:国民負担増、同盟国との関係にも亀裂(4/4 ページ)
トランプ政権による関税政策は、米国内の産業強化には逆効果であることが明らかになってきた。米国企業や米国民の負担を増加させ、同盟国を遠ざけている。そして中国の勢いを削るどころか、むしろ中国のテクノナショナリズム的野望を強める手助けをしている。
「懲罰ではなく投資を」 技術競争での勝利には軌道修正が必須
現行の関税/規制戦略が深刻な政策的失敗であるのは明らかだ。これは、自ら傷を負って友好国を遠ざける道のりであり、勝利のための計画ではない。
米国が21世紀の技術競争において勝利するためには、その欠陥のあるアプローチを中止し、戦略を修正しなければならない。高圧的な短期戦術を、戦略的投資や強固な連携、世界的競争の現実的な理解などに基づいた、長期的ビジョンへとシフトさせる必要がある。
バルセロナスーパーコンピューティングセンター(BSC)のディレクターであるMateo Valero氏は、米国EE Timesの取材に対して「最近の米国の半導体関税をけん引する戦略的な懸念の高まりについては認識しているが、このような無遠慮な措置は、サイエンス向けの高性能コンピューティング(HPC)/AIに直ちに必要とされるグローバルな協力関係を弱体化させる危険がある。関税は、根本的に政治の道具であり、うまく使わなければ、同盟国を緊張させ、安定したサプライチェーンに依存する研究機関にも不確実性を生み出すことになる」と述べている。
BSCのアソシエートディレクターであるCristian Canton氏は「1つのことに全てを賭けてしまわないよう、中国や他のアジアのパートナーをはじめとするさまざまなグローバルサプライチェーンに門戸を開いておくのが賢明だ。BSCや欧州全体におけるHPC/AIワークロードは、関税論争のために減速したり妥協したりしてはいけない。われわれは、科学的使命の機能とレジリエンスを確保すべく、外交的/技術的にあらゆる手段を講じるつもりだ」と述べる。
前進していくためには、懲罰ではなく投資を強化する必要がある。国内の研究開発支援を拡大し、STEM教育や移民に対する世代を超えた取り組みで、深刻な人材不足に対応するべきなのだ。
そのためには、欧州のようなパートナー国との協力関係を継続的に深めていくことで、同盟関係を再構築し、活用することが求められる。「米国の要塞化(Fortress America)」のような、経済的破滅をもたらす実現不可能な空想を追求するのではなく、「フレンドショアリング(friend-shoring)」に注力し、信頼できる国家間でレジリエントなサプライチェーンを構築していくのだ。
米国にとって大切なのは、重要な分野で競争すべきだという点である。中国が成熟ノードのような特定分野において優勢を確立する可能性があることを認識し、「次なる技術フロンティア」において数世代にわたってリードを維持することに全力で集中しなければならない。
米国が直面している選択は難しい。現在の道を歩み続ければ、経済的孤立、同盟の弱体化、そして中国の強化につながる。技術革新や資本市場、グローバルパートナーシップを活用し、競争力と耐久性を獲得するという道のりは険しいが、そちらに進むことが今後数十年にわたって米国の技術的リーダーシップと経済的繁栄を確保する唯一の方法だ。
【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】
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