検索
コラム

「充電5分で520km走行」を巡る疑問、 中国CATLの車載バッテリー発表を考察メガワット充電の実用性(1/3 ページ)

世界最大の電気自動車用バッテリーメーカーである中国のCATLが、わずか5分の充電で520kmの航続距離を実現できると主張する超急速充電バッテリーを発表し、話題となった。しかし、このような超高充電速度の追求は、実用的にどれほど意味があるのだろうか。本コラムでは、バッテリー技術に詳しい筆者が考察している。

Share
Tweet
LINE
Hatena

 世界最大の電気自動車(EV)用バッテリーメーカーである中国のCATLが、わずか5分の充電で520kmの航続距離を実現できると主張する超急速充電バッテリーを開発したというニュースを、2025年4月に目にした人も多いだろう。CATLは「この世界初のLFP(リン酸鉄リチウム)バッテリーは、800kmの航続距離と12Cのピーク充電速度を両立する。また、同バッテリーには独自の先進技術が複数組み込まれ、エネルギー密度やサイクル寿命、安全性を損なうことなく、高速充電レートをサポートする」と説明している。

 これは確かに価値のあるニュースだ。予想通り、記者会見で発表された内容は大きな注目を集めた。米国EE Timesも詳細を伝える記事(上記リンク)を掲載したが、The Wall Street JournalIEEE Spectrumといった他のメディアもこのニュースを報じた。このニュースの最も注目すべき点は、同社が提示した12Cのピーク充電レートとそれに対応するDC急速充電器(DCFC)だが、メディアの多くは「5分間充電」というキャッチ―な表現に飛びついた。バッテリーは複雑で相互に関連した複数の分野にわたる課題を抱える電気化学的エネルギー貯蔵ユニットであり、そうした単純な表現は誤解を招く可能性がある(図1

図1:このような充電式バッテリーの単純な構造の背後には、極めて複雑な化学技術/材料科学技術が存在する
図1:このような充電式バッテリーの単純な構造の背後には、極めて複雑な化学技術/材料科学技術が存在する[クリックで拡大] 出所:アルゴンヌ国立研究所

 5分で12Cの充電レートという主張の他にも、それに関連したある数値が筆者の目を引いた。それは、バッテリーが受け入れ可能な1MWの充電電力だ。これは、建物などの固定設備に供給する場合でも、車のようにケーブルを接続/取り外して供給する場合でも、非常に大きな電力量だ。

バッテリーの進歩の速度は、半導体などとは全く異なる

 EE Timesの読者は、エネルギー(仕事をする能力)と電力(仕事が行われる速度)の違いをよく理解していると思うが、バッテリーや充電について報じる記者の多くは残念ながら、その違いを知らないようだ。そのことが記事の明確性に影響している。さらに、多くの記者は、バッテリーの進歩の速度を、電子技術全般、特に「ムーアの法則」で特徴付けられるような技術と結び付けて考えたがるが、実際はその違いは桁違いに大きい(図2

図2:ムーアの法則は電子機器関連製品の進歩の関する認識にゆがみをもたらしている。バッテリーの進歩のスピードは特に大きな差がある。もしこれらの電気化学デバイスが半導体並みのスピード感で進歩していれば、12Vの内燃機関用スターターバッテリーはコイン電池ほどの大きさになっているだろう
図2:ムーアの法則は電子機器関連製品の進歩の関する認識にゆがみをもたらしている。バッテリーの進歩のスピードは特に大きな差がある。もしこれらの電気化学デバイスが半導体並みのスピード感で進歩していれば、12Vの内燃機関用スターターバッテリーはコイン電池ほどの大きさになっているだろう[クリックで拡大] 出所:Amprius

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

       | 次のページへ
ページトップに戻る