Infineonのパワー半導体最前線 「技術革新の中核」フィラッハで聞く:300mm工場クリーンルームも公開(1/2 ページ)
Infineon Technologiesが、オーストリア・フィラッハ拠点でメディアやアナリスト向けのイベントを実施。事業責任者らが同社のシリコン(Si)、炭化ケイ素(SiC)および窒化ガリウム(GaN)パワー半導体の最新動向について語ったほか、2021年にオープンした300mmウエハー工場のクリーンルームも公開した。
Infineon Technologies(以下、Infineon)は2025年10月、オーストリア・フィラッハ拠点でメディアやアナリスト向けのイベントを実施。事業責任者らが同社のシリコン(Si)、炭化ケイ素(SiC)および窒化ガリウム(GaN)パワー半導体の最新動向について語ったほか、2021年にオープンした300mmウエハー工場のクリーンルームも公開した。
「パワエレの国際的コンピテンスセンター」
フィラッハ拠点はInfineonのパワーエレクトロニクス/ワイドバンドギャップ(WBG)材料の国際的コンピテンスセンターとしての機能を有し、研究/開発/生産の各部門が横断的に連携。同社は2024年には厚さ20μmの300mm Siウエハーおよび300mm GaNウエハー技術を相次いで発表したが、これらの開発もフィラッハのチームが重要な役割を果たしたとしている。
また同拠点では2021年、16億ユーロを投じた300mm薄型シリコンウエハーの工場が稼働。同工場およびSiCやGaNパワー半導体向けの最先端の自動化生産施設の2つを柱としている。これらの施設はそれぞれ、ドレスデンの300mmシリコンウエハー工場およびマレーシア・クリムのWBGパワー半導体工場と密に連携した「One Virtual Fab」として運用されているという。
各アプリケーションに最適化、シリコンは今後も成長続ける
InfineonはSi、SiC、GaNの主要3素材のパワー半導体のいずれにおいても先駆的な取り組みを進めてきた。下図は各分野における同社の特長をまとめたものだ。今回、Infineonのパワースイッチ担当シニアバイスプレジデント兼ゼネラルマネジャーのRichard Kuncic氏がシリコンおよびSiCに関する動向を語った。
シリコンパワー半導体に関して Kuncic氏は、最新の成果である20μmの300mm Siパワー半導体ウエハー技術を強調した。Infineonは厚さ40〜60μmという薄型ウエハー技術で長い歴史を持つが、この技術ではさらに厚さを従来より半分にすることで基板抵抗を50%低減。電力システムにおける電力損失は15%以上削減できるとしている。Kuncic氏は「非常にシンプルな話で、電流はデバイスに対して垂直に流れるため、薄ければ薄いほど抵抗は少なくなる。われわれのデバイスはスイッチングなどで最高の性能指標(Figure of Merit:FOM)を発揮する」と語っていた。

Infineonのパワースイッチ担当シニアバイスプレジデント兼ゼネラルマネジャーのRichard Kuncic氏。薄さを強調するためにあえて曲げている20μmの300mm Siウエハーを紹介している[クリックで拡大] 出所:Infineon Technologies
またKuncic氏は「シリコンはWBG半導体に置き替えられるのか」という問いに対して「例えばデータセンターでみられるような最高レベルの電力密度や、高速スイッチングが求められるようなアプリケーションではGaNの採用が進む。一方でロバスト性や適性価格が重視される用途ではシリコンやSiCが求められるなど、非常にケースバイケースだ。シリコンの寿命は今後も長く、成長を続けていくだろう」と説明した。
「シリコンを採用し続ける顧客にとっての利点の1つは、1970年代から構築してきた非常に幅広い製品ポートフォリオだ。Infineonは、あらゆるユースケースに対応可能な多様なパッケージを提供している。また、われわれのシリコンは現在も最高のコストパフォーマンスを実現し、そして過酷な環境下での堅牢性などの顧客が重視する高い信頼性を備えている」(Kuncic氏)
シリコンパワー半導体製品の一例としてKuncic氏が挙げたのが、第7世代の最新MOSFET「OptiMOS 7」シリーズだ。同氏は「成熟した市場においては、例えば『オン抵抗が圧倒的に優れた新技術』が登場するわけではない。一方で、トランジスタの主要要素であるオン抵抗は、もはや顧客が抱える唯一の問題ではなくなった」と説明。むしろ重視されるのは、各アプリケーションへの最適化だとし、OptiMOS 7シリーズの製品が全て、スイッチングやモーター制御など特定の用途向けに最適化されている点を強調した。
例えばモーター制御向けの40V耐圧品では、オン抵抗と安全動作領域(SOA)およびストランスコンダクションという3つの要素の「最適なバランスとなるよう調整した」という。具体的にはスイッチング損失を最大20%低減すると同時に、過酷なアプリケーション環境向けにSOAを3倍に強化。さらに制御性も最大70%向上したとしている。
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