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交流での高温超電導実現に向けた研究が始動 電動航空機や核融合への活用も2040年までの社会実装を目指す(1/2 ページ)

古河電気工業、京都大学、産業技術総合研究所、高エネルギー加速器研究機構は、超電導技術の産業利用に向けた集合導体の研究開発を本格始動した。交流損失が発生することや大電流を流せないことなど、産業利用に向けた課題を解消し、社会実装を目指す。

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 古河電気工業(以下、古河電工)、京都大学、産業技術総合研究所(以下、産総研)、高エネルギー加速器研究機構(以下、KEK)は、超電導技術の産業利用に向けた集合導体の研究開発を本格始動した。

 同研究は新エネルギー・産業技術総合開発機構(以下、NEDO)の「先導研究プログラム・フロンティア育成事業」において採択された研究開発テーマ「産業用電磁石の極限性能に資する高温超電導集合導体の研究開発」として取り組むものだ。

左から、古河電気工業 廣瀬清慈氏、京都大学 雨宮尚之氏、産業技術総合研究所 奈良崎愛子氏
左から、古河電気工業 廣瀬清慈氏、京都大学 雨宮尚之氏、産業技術総合研究所 奈良崎愛子氏[クリックで拡大]

航空機電動化や核融合 産業利用への期待が高まる高温超電導

 超電導現象を利用すれば、極低損失で電力を輸送したり、一般的な銅コイルでは不可能な高磁界を発生させたりできる。これによって電気機器を小型/軽量/高効率化でき、航空機電動化といった用途に向けて前進する。加えて、粒子加速器用の強力な電磁石や、核融合技術の実現にも貢献する。

 絶対零度(−273℃)に近い極低温まで冷却する低温超電導の研究も進んでいるが、コストの高い液体ヘリウムで冷却する必要がある上に温度が厳密で産業利用はハードルが高い。そのため、管理しやすく低コストな液体窒素(−196℃)を用いる高温超電導のほうがより産業利用に近いといえる。また、高温超電導では低温超電導よりも強い磁界を発生させられる。

 産業利用となると、コイルの大型化、交流用途への対応、製造しやすさが課題となる。今回の研究はそうした課題を踏まえて行うものだ。古河電工が産業化の推進役を担い、京都大学は物理現象に基づいた構造/特性設計と試作を行う。産総研は機序に基づいたレーザー加工技術の開発を、KEKは工業化に必要な評価技術を担う。

 古河電気工業 研究開発本部 超電導事業推進部 部長 廣瀬清慈氏は「この研究では『産学連携』が大きなキーワードだ。社会実装を強く意識するうえで、メーカーである古河電工が参加する意義がある」と述べた。

欠陥に対応したケーブル開発に取り組む京大

 高温超電導応用に向けては、幅4mm程度のテープ状のレアアース系高温超電導線材(REBCO)がデファクトスタンダードとして用いられているが、交流での応用には3つの課題がある。

 1つ目は、交流での利用時に磁界が変化し、交流損失が発生することだ。磁気が磁束量子線として超電導体の中に侵入して移動するときに発生する摩擦熱のようなもので、これによって温度が上昇して超電導状態を保てなくなるほか、熱対策に電力が必要で電気機器の効率が低下してしまう。2つ目は数千〜数万アンペアという多くの実用機器に対応した電流を流せないことだ。そして3つ目は、テープ形状によって曲げやすい方向が決まっていて、多様な形のコイルには巻き付けられないことだ。

 京都大学 工学研究科 教授の雨宮尚之氏らは、こうした課題を解消するケーブル「SCSC-IFBケーブル」の設計/試作を進めている。このケーブルに用いるのは、超電導体を細かく分割(マルチフィラメント化)して交流損失を低減した線材「IFB-REBCOテープ」だ。IFB-REBCOテープはフィラメント間にブリッジを設けることで、局所的な欠陥があっても電流が迂回できる構造になっている。

SCSC-IFBケーブルの構造
SCSC-IFBケーブルの構造[クリックで拡大] 出所:京都大学

 SCSC-IFBケーブルは、金属製の芯材にIFB-REBCOテープをらせん状に複数層巻き付けたものだ。多層化によって電流容量を増大し、らせん巻きによって柔軟性を増して多様な形状に対応できるようにする。開発の中心は京都大学だが、IFB-REBCOテープは古河電工が供給し、科学技術振興機構が支援を行ってきた。

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