交流での高温超電導実現に向けた研究が始動 電動航空機や核融合への活用も:2040年までの社会実装を目指す(2/2 ページ)
古河電気工業、京都大学、産業技術総合研究所、高エネルギー加速器研究機構は、超電導技術の産業利用に向けた集合導体の研究開発を本格始動した。交流損失が発生することや大電流を流せないことなど、産業利用に向けた課題を解消し、社会実装を目指す。
AIと超短パルスレーザー活用で特性向上を目指す
そして、IFB-REBCOテープのマルチフィラメント化のためのレーザー加工技術の開発を行うのが産総研だ。ここでは、特性向上をもたらす微細加工技術、目的に応じて最適化できる自由自在なパターン形成、そして量産に対応した高速化が求められる。
産業技術総合研究所 総括企画主幹 奈良崎愛子氏は「レーザー加工は簡単にできるものだと思われているかもしれないが、今回の研究は新しい技術が必要で、なかなか難しい。薄くてしなやかな材料に、正確かつ高速に溝を形成するというのは、次世代の技術だ」と説明する。
それを踏まえて今回のプロジェクトで産総研が活用を検討するのは、パルス幅が非常に短い超短パルスレーザーだ。材料の熱ダメージを抑えられるので、多様な材料を精密に加工できる。ペロブスカイト太陽電池のような多層デバイスの溝形成やバイオ材料の3次元(3D)プリンティングにも活用される技術だ。
データドリブンなレーザー加工技術も鍵となる。産総研は、加工パラメータから加工形状を予測できるAIシミュレーターを開発した。奈良崎氏は「従来のレーザー加工技術の研究は『まず実際に加工してみてからそれを観察し、改善してやり直す』という繰り返しだったが、それでは超電導線材のような新しい材料への対応は難しかった。このシミュレーターを使えば、実験レスでパラメータを最適化することも可能になる」と述べる。さらに、省人化やコスト削減にも貢献すると考えられる。産総研はこれに加えて、自由自在なパターン形成や高速スキャンの実現に向けたシステム開発にも取り組む。
KEKは、SCSC-IFBケーブルの機械的特性評価を担う。REBCOは積層構造によって剥離しやすい/テープ形状で曲げ方向に制約があるといった特徴がある。これを踏まえ、KEKが持つ評価技術を駆使して、電流や磁場による力への耐性向上を目指し、基礎データの収集や設計指針の構築を行うという。
今後の具体的なスケジュールは明らかになっていないが、古河電工/京都大学/産総研/KEKは、2040年までにSCSC-IFBケーブルの社会実装を目指すとしている。
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