TSMCはもはや世界の「中央銀行」 競争力の源泉は150台超のEUV露光装置:湯之上隆のナノフォーカス(85)(2/5 ページ)
2025年第3四半期、TSMCは過去最高の売上高と営業利益を記録した。なぜ、TSMCはここまで強いのか。テクノロジーノード別/アプリケーション別の同社の売上高と、極端紫外線(EUV)露光装置の保有台数を基に、読み解いてみたい。
TSMCのノード別の売上高の推移
図4に、TSMCのノード別売上高の推移を示す。TSMCは2019年第3四半期(Q3)に、世界で初めて7nm+プロセスの孔パターンにEUVを量産適用した。EUVの適用層数は5層であり、このときTSMCの四半期売上高は約100億米ドルとなった。
その後、TSMCは2020年Q3に、孔パターンだけでなく配線パターンにもEUVを適用する5nmプロセスを立ち上げた。EUVの適用層数は14層に拡大し、それに伴ってTSMCの売上高も急増して、2022年Q3には四半期200億米ドルに達した。
しかし、2022年Q4以降は、コロナ特需の終焉による半導体不況の影響で、TSMCの売上高は一時的に減少した。ところが、2023年Q3に約20層のEUVを適用した3nmプロセスが立ち上がると、売上は再び急上昇に転じ、前述の通り2025年Q3には過去最高の331億米ドルを記録した。
以上の推移から、TSMCはEUVを導入して以降、新たな先端ノードを立ち上げるたびに、おおむね100億米ドル単位で売り上げを押し上げてきたことが分かる。すなわち、EUVを自在に使いこなし、先端ノードを量産する能力こそが、TSMCの圧倒的な売上高成長の原動力であるといえよう。
その一方で、先端以外のノードの売上高は低迷していることを以下に示す。
TSMCのノード別売上高で増えているのは5nmと3nmだけ
図5に、TSMCのノード別売上高を、積み上げ方式ではなく折れ線グラフで示す。この図から明らかなように、売上高が増加しているのは先端の5nmと3nmのみであり、それ以外のノードは横ばい、あるいは減少傾向にある。
特に、TSMCが先端ノードの一つと位置付けている7nmの売上高は2022年Q2に54.5億米ドルでピークアウトし、翌2023年Q3には約半分の27.6億米ドルまで低下した。その後、上下動を繰り返しながら緩やかに回復しているものの、依然としてピーク水準には至っていない。さらに、7nmよりルールが緩いノードについては、売上回復の兆しは乏しく、むしろ減少傾向が目立つ。
では、なぜ5nmと3nm以外のノードの売上高が低調になったのだろうか。これは、世界の成熟ノードの需要が減少したからでは無いと考えている。その根拠を以下に示す。
図6は、台湾の調査会社TrendForceが予測した、地域別にみた先端プロセス(Advanced Processes)と成熟プロセス(Matured Processes)のキャパシティー比率を示す。ここで、先端プロセスとはFinFETやGAAを採用した16/14nm以下のプロセス、成熟プロセスは28nmよりルールが緩いノードを指す。
図6:地域別のファウンドリーのキャパシティーの推移(2021年→2030年)[クリックで拡大] 出所:Ken Kuo、「Analysis and Technical Advancement of Most Advanced Foundry and Package Markets in 2025 under the AI Future」(2025年4月17日)、TreendForceのセミナーのスライド
成熟プロセスに着目すると、2021年時点で台湾が54%、中国が22%、韓国が8%、米国と日本がそれぞれ3%であった。しかし2030年には、中国のシェアが49%へ急増する一方で、台湾は29%へ低下するとの予測が示されている。
この変化の背景には、米国による対中半導体規制がある。中国はEUV露光装置を輸入できないうえ、ASMLは2023年9月以降、ArF液浸露光装置の中国向け輸出も停止した。これにより、SMICをはじめとする中国半導体メーカーは、先端プロセスから成熟プロセスへと生産の軸足を移した。
その結果、成熟ノード市場は中国で急速に増産が進み、TSMCの成熟ノード領域は中国企業に侵食されつつあると考えられる。つまり、TSMCの成熟ノードの売り上げ低迷は、世界の需要縮小ではなく、中国企業にシェアを奪われた結果と推測できる。この状況は、ノード別ウエハー投入枚数の推移にも明確に現れている。その詳細を示そう。
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