前門の虎、後門の狼 ―― 日本の半導体はどうすべきか:大山聡の業界スコープ(94)(1/2 ページ)
中国のパワー半導体メーカーが急速に台頭し、日欧勢を脅かしている。AIブームで勢いづくロジック・メモリ分野では日本が蚊帳の外にあり、パワー半導体でも中国勢が猛追。AIブームに乗れずレガシー分野でも競争が激化する日本は、まさに「前門の虎、後門の狼」の状況にある。
前回は、パワー半導体市場において中国勢が台頭する可能性について触れた。この可能性が現実味を帯びてくれば、パワー半導体市場に注力している日系半導体メーカーに大きな影響が及ぶことは必須である。そしてその影響は日系企業だけでなく、欧州半導体メーカーにも大きく及ぶことになる。日本と欧州の半導体産業には多くの共通点があり、MCU、アナログ、パワー半導体を主力製品に位置付けていることも共通している。筆者は日系各社がこの戦略を維持することをこれまで「良し」としてきた。だが、最近は果たしてそうなのか、日本も欧州もこのままでは世界半導体市場の中で行き場を失ってしまうのではないか、という懸念が強まっている。今回はその点について述べてみたい。
欧州企業の「協業」が裏目に
前回記事の反響として、多くの方々から「実際に中国勢の台頭でパワー半導体の単価が下落圧力を受けている」というコメントをいただいた。IGBTもMOSFETも、さらには次世代パワー半導体として注目されているSiCもGaNも、中国勢の台頭が目立っているという。中国の揚州揚傑電子科技(Yangjie Electronic)は、12インチウエハーでIGBTの量産を開始しており、日本市場にも出荷し始めた。しかも180nmプロセスを採用することで微細化やトレンチ構造の最適化を実現し、コストパフォーマンスにおいても極めて優れている点を強調している。同じく中国の三安光電は、STMicroelectronics(以下、ST)と共同で8インチウエハーのSiC量産ラインを建設、当面はST向けのSiC専用ファウンドリーとして2025年内に量産出荷する予定としている。
あまり日本ではなじみのない各社だが、実際に中国向けにレガシー半導体向けの製造装置が大量に出荷されている事実と突き合わせると、これらの企業が今後世界パワー半導体市場に台頭してくることは間違いないだろう。前回も述べた通り、中国には世界最大の電気自動車(EV)市場がある。そのキーデバイスであるパワー半導体を、中国政府が育成する戦略を立てているだけでなく、Infineon TechnologiesやSTなどの欧州半導体メーカーが、中国企業との共同開発や合弁企業の設立を積極的に進めた結果が出始めている、と見ることもできよう。
欧州企業は自動車業界においても中国企業との協業や合弁設立を積極的に行っている。その結果中国製の自動車が欧州市場に安価で逆輸入されることになり、戦略の見直しを余儀なくされたはずである。パワー半導体でも同様のことが起きるのは時間の問題であり、しかも今度は日本の半導体メーカーにまで影響が及ぼうとしている。自動車業界での話は、筆者は「余計なお世話」として言及を避けていたが、半導体業界に話が及んでくるとなると別である。欧州企業に対しては「余計なことをしてくれたな」というのが偽らざる本音だ。
日本勢は規模とスピードで後手に
しかし筆者が恨み節を言おうが言うまいが、力をつけた中国勢は、政府の資金援助も手伝って世界市場にどんどん登場してくる。これに対して日本勢はどう立ち向かうのか。東芝、三菱電機などは12インチウエハーでのパワー半導体量産を進めているが、果たして規模で勝てるのか。さらには8インチや6インチなど今でも小口径ウエハーでパワー半導体を製造している日系各社は生き残れるのか。SiCで8インチウエハー量産を進めているロームにとっても人ごとではない。政府がトップダウンで民間企業に指示を出し、資金援助もするような中国の戦略は、西側諸国にとって脅威でしかない。今後はこの前提を踏まえた上で、日本でも政府と民間企業が話し合いを持ちながら共同で戦略を立てる必要がありそうだ。
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