数時間で実装できるエッジAI 推論性能は「Jetson」に比べて10倍:米新興のSiMa.ai(1/2 ページ)
エッジAI用ソリューションを手掛ける米新興のSiMa.ai(シーマドットエーアイ)が、日本市場への展開を本格化している。消費電力が同等の場合、CNN(畳み込みニューラルネットワーク)の推論性能を10倍に高速化できることが特徴だ。
旧Xilinxのエンジニアが創立したスタートアップ
エッジAI用ソリューションを手掛ける米新興のSiMa.ai(シーマドットエーアイ、以下SiMa)が、日本市場への展開を本格化している。旧Xilinxや旧Cypress Semiconductor、Alteraなどでエグゼクティブを務めた経験を持つKrishna Rangasayee氏が立ち上げた企業で、ことし(2025年)で創立7周年を迎える。SiMaはサンスクリット語で「エッジ」を意味するという。同社は現在、シリーズDで累計3億5000万米ドルを調達している。約1年前の2024年11月には日本法人としてシーマ・テクノロジー・ジャパンを設立。Xilinxのカントリーマネージャーや日本AMDの代表取締役を歴任した林田裕氏がセールスディレクターを務めている。
10倍の推論性能を目指す
SiMaが目指すのは、使い勝手のよい開発ツールを使って推論性能を高速化することだ。
創業時から「どんなセンサーやAIモデルなどを使っても、消費電力が同じ場合、CNN(畳み込みニューラルネットワーク)モデルの推論を10倍高速化する」という目標を掲げる。15Wや10WといったエッジAIで一般的とされる電力バジェットにおいて、推論の速度(フレーム/秒)が10倍になることを目指す。
SiMaの目標。正確には「どんなXXでも、プッシュボタン方式の簡単な開発ツールを使って、CNNの推論性能を10倍にする」という内容で、「XX」にはセンサーやAIモデル、ネットワーク、フレームワーク、モダリティ、といった言葉が入る[クリックで拡大] 出所:SiMa
SiMaは現在、SoC(System on Chip)、SoM(System on Module)、M.2の拡張カードなどをハードウェアとして提供している。
SoCは第1世代の「MLSoC」と、第2世代となる「MLSoC Modalix(以下、Modalix」を量産中だ。MLSoCで動作するモデルはCNNのみで、ModalixはどのAIモデルも動作する。動作するモデルが限定されていないので、現在はModalixへの関心が高いと林田氏は説明する。
いずれもアプリケーションプロセッサにはArm「Cortex-A65」を搭載する。「Cortex-A72やCortex-A78を使うのがトレンドだが、われわれは低電圧駆動のCortex-A65をあえて使用している」(林田氏)。独自開発のAIアクセラレーターも搭載していて、推論を高速化するには、このアクセラレーターが肝になると同氏は述べる。
NVIDIAのAIプラットフォーム「NVIDIA Jetson Orin」などのように、GPUの横にDLA(Deep Learning Accelerator)を配置し、AI処理を行う例もあるが、林田氏はこの構成だと推論を高速化しにくい場合があると説明する。GPUとDLAが同じDRAMにアクセスするので、GPUがDRAMにアクセスしている間は、DLAが待機しなければならないからだ。SiMaはエッジでの推論にはGPUは不要と考え、アクセラレーターで推論を高速化するアーキテクチャを選んだ。
Modalixは、MIPI CSI-2のインタフェースを備えていることも特徴になっている。これにより、カメラなどからMIPI信号を直接チップ内に送信し、CNNなどのAI処理を行える。「Modalixは、映像や静止画、ポイントクラウドデータ、音声や信号、文章、開発コードなど、あらゆる入力の組み合わせに対してCNNや大規模言語モデル(LLM)をかけ、合成したものを出力する」と林田氏は説明する。これを1チップで完結できることがSiMaの製品の強みだという。
「CNNと生成AIを併用したいというニーズが増えている。CNN用のボードと生成AI用のボードを2つ並べるのは効率的ではない。当社のソリューションであれば、ホスト側に別のプロセッサなどを用意することなく、1つのチップや1枚のボードで完結できる」(林田氏)
SiMaのSoMは、NVIDIA「Jetson」モジュールと同じフォームファクタでピン互換性もあり、そのまま差し替えられるようになっている。さらにSiMaは、SoMを搭載した開発キットを1499米ドルで発売中だ。Modalixを搭載したSoM、ヒートシンク、イーサネットやUSBのポート、電源を搭載したボードで、ユーザーはさまざまなモデルを動作させてModalixの性能を評価できるようになっている。
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![Modalixは、さまざまな入力の組み合わせに対してCNNやLLMをかけて、合成したものを出力する[クリックで拡大] 出所:SiMa](https://image.itmedia.co.jp/ee/articles/2512/15/mm251211_sima03.jpg)

