Nexperia接収で得た教訓 半導体政策で欧州が直面するジレンマ:政府はどこまで介入すべきか(2/3 ページ)
オランダ政府によるNexperia接収で、EU諸国では「半導体ビジネスにおいて政府がどこまで介入すべきか」という議論が巻き起こっている。
同じEUでも、政府と企業の連携度合いは異なる
一方、Doppen氏の投資スクリーニングに関する調査によると、EU諸国は従来、国内産業とどれだけ密接に連携するかという点で大幅に異なるという。歴史的に見て、フランスは主要企業との密接かつ非公式な協調を維持するが、オランダや英国はそれよりも距離を置くようだ。ドイツがちょうどその中間くらいのスタンスを取っている。
Doppen氏は「欧州全土で、政府と半導体企業の間に強力な“非公式関係”が形成されつつあると考えている」と述べた。
それでも、文化の違いは重要だ。Doppen氏は「フランスは介入に慣れている」と指摘する。同氏はさらに「オランダのモデルは、政府と企業間のオープンで一定の距離を保った関係に基づいて構築されているため、Nexperiaの接収は、たとえそれが新しい地理経済学的時代に適合しているとしても、異例のことに感じられた。イタリアは、戦略的セクターが危機にひんしている場合には、フランスのように積極的に直接介入する傾向がある」と付け加えた。
こうした相違は、欧州が協調的な半導体セキュリティのフレームワークを構築しようとする上で、問題になる。欧州委員会は調和を推進する一方で、国家安全保障に関する最終的な決定権は各加盟国が保持しており、それぞれのアプローチは深い組織文化を反映している。
外国直接投資(FDI)審査は、現在ほぼ全てのEU諸国で実施されており、政府が外国企業による買収を体系的に審査する手段を提供することを目的としている。しかし、半導体のセキュリティは審査だけに頼ることはできない。Doppen氏によると、イノベーション性の高いセクターでは投資審査が「遅すぎるし、厳格すぎる」という。技術の進化は、審査のために設計されたフレームワークよりも速い。
Doppen氏は「FDIは、保護はするが、迅速な介入に必要な柔軟性を必ずしも提供するわけではない」と述べ、「次の手段は、より広範な事後権限や対象を絞った緊急緊急メカニズムなどのセキュリティバルブを伴うものになると予想している」と付け加えた。
新たな半導体工場や研究開発センターなどのグリーンフィールド投資は、そのギャップを表している。外国で建設された新工場が後に戦略的に重要になる可能性があるとしても、ほとんどの国の審査法はグリーンフィールドプロジェクトを対象としていない。オランダとドイツはグリーンフィールド投資をまったく審査していないが、スウェーデン他数カ国は同審査を行っている。
Houttekier氏によると、多くの欧州諸国は2023年まで審査制度を導入していなかったため、審査が存在するずっと前に多くの重要資産が買収されてしまったという。「収用(強制的な国有化)をしない限り、過去にさかのぼることはできない。FDI審査は将来的には役立つが、レガシーな所有権の問題を解決することはできない」と同氏は述べている。
そして、まさにこれこそがNexperiaが政治的に大きな物議を醸すことになった要因である。戦略的に重要な半導体工場は既に中国の親会社が所有しており、緊急的な接収以外に経営権のバランスを取り戻す明確な道筋がなかったのだ。
いくつかの加盟国は現在、審査にとどまらず、完全なガバナンスに踏み込むメカニズムを模索している。フランスは既に黄金株や緊急国有化といった、投資家の権利を恒久的に損なうことなく、企業を一時的に掌握できる手段を活用している。Doppen氏によると、フランス国民は国家の直接的な介入をそれほど警戒していないという。食糧やエネルギーの安全保障が危機にひんしている場合、フランス当局は「取引を阻止する」とだけ表明して事態を収拾したという過去事例もある。
「フランス政府は介入に対する警戒など気にもしないだろう。フランスでは、介入はモデルの一部だ」と同氏は述べている。
Houttekier氏は、こうした権限は「最も深刻な脅威」に対して留保されるべきであるとしつつも、今後はより頻繁に行使されるであろうことを認めている。EU半導体法下での補助金など、産業政策が拡大すると、国家は当然、ガバナンス権、サプライチェーンの開示、外国企業による所有の制限などの条件を付ける。「こうした条件は、華々しい買収ではなく、資金調達や研究開発プログラムへのアクセスの制限を通じて、欧州の外資系半導体企業に静かに不利益をもたらす可能性がある」と同氏は警告している。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
