Nexperia接収で得た教訓 半導体政策で欧州が直面するジレンマ:政府はどこまで介入すべきか(3/3 ページ)
オランダ政府によるNexperia接収で、EU諸国では「半導体ビジネスにおいて政府がどこまで介入すべきか」という議論が巻き起こっている。
今後は「非公式」な手段も重要に
Doppen氏の最も重要な調査結果の1つは、加盟国と欧州委員会(EC)の間の非公式な協力に関するものだ。審査の決定は国ごとに行われるが、各国政府は水面下で定期的にリスク評価や政治的シグナルを交換しているという。
同氏は「多くの非公式なコミュニケーションが交わされている。安全保障上の脅威に関して意見が一致している場合は特にそうだ」と述べている。
半導体に関しては、リスクが国境を越え、サプライチェーンが複数のEU管轄区域にまたがっているため、こうした非公式なやり方が極めて重要になる可能性がある。しかし、これには別の問題もある。外国投資家に課される制限である「緩和協定」は、加盟国間でさえ不透明なことが多い。
Doppen氏は「加盟国は審査の決定や緩和協定において、他国の安全保障上の懸念を考慮することが容易にはできない」と指摘する。ある取引で合意された救済措置には、海外に保管されるデータの保護が含まれる場合があるが、その対象は当該国のデータに限られる。例えばスペインは投資家に対し、海外に保管されたスペインのデータを保護するよう求める条項を設けることはできるが、ドイツやフランスのデータにはこの条項を適用できない。
Doppen氏は、もう1つの複雑な状況の例として、オランダの小規模サプライヤーがフランスの防衛関連企業にとって極めて重要であるにもかかわらず、オランダの法律では外国の安全保障上の懸念を理由とした介入が認められないというケースを挙げている。その結果、非効率、過剰なコンプライアンス、実際の安全保障上の欠陥といった問題が生じるリスクのある、つぎはぎ状態が生じている。
欧州は次に何をすべきか
Houttekier氏は「欧州は3nmノードやEUVリソグラフィなどの最先端技術だけに注力すべきではない」と指摘する。米中対立は最先端チップから成熟ノードへと移行しており、さらなる移行の可能性もある。「まるでウオーターベッドのようだ。一箇所を押すと、別の場所に圧力が移動する」と同氏は言う。
欧州は、材料、設備、パッケージング、そして何よりも代替が困難な依存関係など、バリューチェーン全体にわたるリスクをマッピングする必要がある。原材料からレガシーチップ、パッケージングツールに至るまで、予期せぬ分野に盲点があるかもしれない。
欧州諸国は、同じ根本的なジレンマに直面している。「イノベーションを支える投資を損なうことなく、いかにして主権を守るか」ということだ。Doppen氏は、こうした緊張は新しいものではないものの、今やより深刻化していると強調する。
「規制とFDI誘致は常に矛盾を抱えてきた。地政学的な状況が、そのリスクをさらに増大させている」(Doppen氏)
【翻訳:青山麻由子、滝本麻貴、編集:EE Times Japan】
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