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IBMが語る量子技術戦略 「1年以内に量子優位性を実現する」Googleと接戦のさなか(1/2 ページ)

IBMの量子技術導入担当バイスプレジデントであるScott Crowder氏は、米国EE Timesの独占インタビューに応じ、IBMの量子技術の戦略を語った。同氏は「IBMは、量子優位性を巡る争いにおいて今後数カ月のうちに勝利を獲得しようと、Googleとの間で互角の戦いを繰り広げている」と述べた。

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Scott Crowder氏
Scott Crowder氏 出所:IBM

 IBMの量子技術導入担当バイスプレジデントであるScott Crowder氏は、米国EE Timesの独占インタビューに応じ、「IBMは、量子優位性を巡る争いにおいて今後数カ月のうちに勝利を獲得しようと、Googleとの間で互角の戦いを繰り広げている。他にも中国科学院(Chinese Academy of Sciences)やQuantinuumなどが、懸命に後を追ってきている」と述べた。

 量子優位性の定義は「量子コンピュータで量子プログラムを実行し、地球上に存在する他のどの計算デバイスよりも優れた結果を確実に達成できること」とされている。

 Crowder氏は「今後12カ月以内に、100量子ビットを超える量子コンピュータによって、量子優位性は実現されるだろう。われわれとしては、それを実行するのは当社製システムだと考えている。そのような量子コンピュータを構築できるのは、IBMと、Google、中国科学院の他、おそらくQuantinuumと、ごく少数だ。GoogleとIBMが、最初に実現することを目指して接戦を繰り広げている」と述べる。

初の5量子ビットシステム導入から9年で著しい進化

 D-Waveが2025年初めに「量子優位性を達成した」と主張したことについて、IBMは否定的だ。Crowder氏は「それと同じことをFPGA実装や他の従来型の実装で行う方法はいくつかあるだろう。D-Waveが提案している手法よりもはるかに低コストで実現できるのではないか」と述べている。

 最初に量子優位性を実現した者は、学術コミュニティーにおいて特別な名誉を得ることになるだろう。しかしCrowder氏は「業界の人間には、名誉などは全くどうでもいいことだ」と語った。

 また同氏は「人々が次に量子技術に関心を持つようになるのは、実用化の段階だ。例えば、量子コンピュータや量子アルゴリズムを利用した債券ポートフォリオ策定で、投資銀行が数十億米ドル規模の利益を得られる、といったことだ」と付け加えた。

 「われわれは既に、それを特定の顧客に向けて実現できるシステムを保有している。今から5年後に人々が関心を持つようになるのは、そうした問題だろう」(Crowder氏)

 IBMが2016年に、同社初の5量子ビットシステムをクラウド上に導入した当時、ノイズによる信頼性低下の影響を受けずに演算を実行できる回数は25回程度だった。しかし今やIBMの量子サービスは、信頼性を保って5000〜1万5000回の演算を実行できる。

 Crowder氏は「これは、従来コンピューティングからの指数関数的な飛躍だといえる。IBMやGoogle、そして他の数社にとって、『世界最大のスーパーコンピュータで自社技術を実行できるかどうか』を議論する段階はもう通り過ぎた。それは不可能なのだ」と述べる。

超電導量子ビットで先行するIBM

 IBMは数十年前に、商用半導体製造から撤退したが、量子デバイスの製造や先進パッケージングなどをはじめとする技術スタックを保有していて、現在もプレーヤーとしての位置付けを維持している。

 IBMは、量子コンピュータの基盤として超電導量子ビットを選択した。2025年11月、同社はニューヨーク州アルバニーの半導体研究開発促進組織であるNY CREATES(New York Center for Research, Economic Advancement, Technology Engineering and Science)のAlbany NanoTech Complexで量子プロセッサを製造していることを発表した。

 Crowder氏は「超電導量子ビットは、新しい方法の1つだ。ここ20年弱で普及するようになったが、フォトニクスやイオントラップ型ほどは長くない。しかし、速度と品質、プログラマビリティのバランスに優れている。量子コンピュータを構築するには、この3つの要素全てが必要だ。超電導量子ビットの演算速度は、現在ナンバー2の方法とされているイオントラップ型と比べて、約1000倍高速だ」と述べている。

 モジュール形式のフォールトトレラント量子コンピュータには、効率的な誤り訂正符号と、単なる次近接ではない量子ビット間の接続が必要だ。

 Crowder氏は「量子ビット間の長距離接続を実現するには、ある程度の複雑性が生じる。半導体製造の観点からみると、高品質かつ高コヒーレンス性の量子ビットの製造プロセスだけでなく、マルチレベルパッケージングや、そのような長距離接続を忠実に実行するための先進パッケージング能力も確保する必要がある」と述べ、「研究開発の観点からみると、IBMは半導体分野から撤退したことは一度もない」と付け加えた。

 「われわれはそれをうまく生かし、Albany NanoTech Complexでの取り組みを活用することで、300mm工場へのアクセスを確保している。われわれにとってはそれが大きなアドバンテージとなり、今後進んでいく上でさらに重要度が増していくだろう」(Crowder氏)

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