検索
連載

EUV露光に残された課題――ペリクルの現在地と展望とは湯之上隆のナノフォーカス(86)(4/5 ページ)

2025年11月に都内で開催されたimecのフォーラム「ITF Japan 2025」から、三井化学による極端紫外線(EUV)露光用ペリクル(保護膜)の講演を解説する。最先端の半導体製造に不可欠なEUV露光だが、実は、ペリクルに関しては依然として多くの課題がある。三井化学はそれをどう解決しようとしているのか。

Share
Tweet
LINE
Hatena

CNT製EUVペリクルに言及した三井化学の発表

 まず、図6に示すように、三井化学はCNTペリクルの開発を「15年間にわたり継続してきた」と発表した。15年前というと2010年になるが、この時期はEUV露光装置がまだ出荷されていなかった。そうした段階からCNTペリクルの開発に着手していたという事実には、驚きを禁じ得ない。

図6:15年間にわたりカーボンナノチューブ(CNT)ペリクルの研究を続けてきた三井化学
図6:15年間にわたりカーボンナノチューブ(CNT)ペリクルの研究を続けてきた三井化学[クリックで拡大] 出所:平原昭夫(三井化学)、「化学とコラボレーション:明日の半導体エコシステムを推進する」、(ITF Japan 2025)の発表スライド

 歴史を振り返ると、三井化学は2019年5月にASMとEUVペリクル事業に関するライセンス契約を締結し、生産権および販売権を取得した。その後、2021年5月26日にはEUVペリクルの商業生産開始を正式に発表した。これら初期の製品はポリSiコア構造のペリクルである。

 しかし、より高い透過率が求められる中で、三井化学はポリSiコアからCNTへの材料転換を決断した。図7に示された同社のRoadmapによれば(詳細は明示されていないものの)、2025年頃からCNTペリクルの開発・製造に本格着手したと推察される。

 今回発表されたCNTペリクルの性能は、図8にまとめられている。EUV光の単一透過(singlepass)での透過率は94%、3回透過と仮定した場合の透過率は約83%となる。また寿命は5000枚〜1万枚で、20μm以上の異物はゼロと書かれている。

図7:三井化学のEUVペリクルのRoadmap
図7:三井化学のEUVペリクルのRoadmap[クリックで拡大] 出所:平原昭夫(三井化学)、「化学とコラボレーション:明日の半導体エコシステムを推進する」、(ITF Japan 2025)の発表スライド
図8:三井化学のカーボンナノチューブ(CNT)ペリクルの性能
図8:三井化学のカーボンナノチューブ(CNT)ペリクルの性能[クリックで拡大] 出所:平原昭夫(三井化学)、「化学とコラボレーション:明日の半導体エコシステムを推進する」、(ITF Japan 2025)の発表スライド

 EUV透過率が94%であり、寿命が5000〜1万枚にとどまっていることから判断すると、CNTへの金属コートは施されていない可能性が高い。一方で、先端半導体メーカーが求める寿命はおおむね3万枚以上である。従って、透過率を犠牲にせず寿命をどのように改善するのかが、今後の最大の課題になると考えられる。

 さらに三井化学は、ASMLのEUVのRoadmapを提示した(図9)。その中で、2027年頃にリリース予定の「NXE:3800F」が黄色枠で強調されている。この表記から、三井化学は現在開発中のCNTペリクルを、NXE:3800Fに搭載することを目標にしていると推察できる。

図9:2027年にリリースされるNXE:3800FにCNTペリクル搭載を目指す
図9:2027年にリリースされるNXE:3800FにCNTペリクル搭載を目指す[クリックで拡大] 出所:平原昭夫(三井化学)、「化学とコラボレーション:明日の半導体エコシステムを推進する」、(ITF Japan 2025)の発表スライド

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

ページトップに戻る