EUV露光に残された課題――ペリクルの現在地と展望とは:湯之上隆のナノフォーカス(86)(3/5 ページ)
2025年11月に都内で開催されたimecのフォーラム「ITF Japan 2025」から、三井化学による極端紫外線(EUV)露光用ペリクル(保護膜)の講演を解説する。最先端の半導体製造に不可欠なEUV露光だが、実は、ペリクルに関しては依然として多くの課題がある。三井化学はそれをどう解決しようとしているのか。
CNTペリクルの問題点とは
図5は、2017年にimecがリソグラフィの国際学会SPIEで発表した論文のProceedingsに掲載されたものである。
図5:カーボンナノチューブ(CNT)ペリクルの問題点[クリックで拡大] 出所:Ivan Pollentier et al.,(imec), “Novel membrane solutions for the EUV pellicle: better or not - ”, Proc. of SPIE Vol. 10143 101430L-2の図に筆者加筆
まず、波長13.5nmのEUV光は空気中の酸素に吸収されるため、EUV露光装置内部は真空環境となっている。そのうえで、EUV光源から発生する炭素系汚染物によってミラーの反射率が低下することを防ぐため、露光装置内には水素が導入されている。というのは、EUV光の照射で生成された水素ラジカルが、ミラー表面に付着した炭素を化学反応により除去してくれるからである。
しかし、この水素ラジカルは、CNTペリクルに対しても同様に「アタック」を行う。図5の①に示すように、CNTを構成する炭素繊維は水素ラジカルにより徐々にエッチングされていく。その結果、約50時間のEUV照射でCNTネットワークが大幅に失われ、スカスカの状態になってしまう。この状態ではペリクルの役割を果たすことができない。
そこで、この水素ラジカルによる劣化を防ぐため、CNT表面を金属薄膜でコートする手法が考案された。図5の②がその例であり、金属コートしたCNT膜は、500時間もの水素ラジカル試験でもほとんど損傷を受けないことが確認されている。
ところが、この金属コートには重大な欠点がある。金属コートなしでは96%であったEUV透過率が、コート後には90%まで低下してしまうのである。さらに、500時間の水素ラジカル試験後には、炭素の再付着などによりCNTの繊維が太ったように見える。その結果、CNTペリクルの透過率は90%をさらに下回っている可能性が高い。
このように、CNTペリクルには根本的なジレンマが存在する。すなわち、高いEUV透過率を維持するには金属コートを避けたいが、水素ラジカル環境に曝されるとCNTが急速に削れてしまう。一方、水素ラジカルによる攻撃を防ぐために金属コートを施すと、今度は透過率が大きく低下する。
要するに、CNTペリクルでは透過率と寿命がトレードオフの関係にあるわけだ。従って、CNTペリクルをEUV露光装置に適用するためには、このトレードオフを解決する新たな材料工学的探索が不可欠になると考えられる。しかし、それはかなり難しい問題である。
このような状況下で、CNTペリクルの開発が進められているが、「ITF Japan 2025」で、三井化学はどのような発表を行ったのだろうか?
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