中国がEUV試作機 世界の半導体市場は完全に分断されるのか:レガシーチップの価格下落の可能性も(1/2 ページ)
中国で極端紫外線(EUV)露光装置の試作機が動作したと、ロイターが報じた。市場投入できるチップを量産できる装置ではないものの、中国は、最先端チップ製造における障壁をまた一つ崩したのかもしれない。さらに専門家は、これによりレガシープロセスで製造したチップの価格の下落が始まる可能性があると指摘している。
中国で極端紫外線(EUV)露光装置の試作機が動作したという。この技術は米国が何年も阻止しようとしてきたものだ。
ロイターの調査によれば、EUVのプロトタイプが深センで稼働していることが確認されたという。この開発は単なる技術的なマイルストーンではない。深刻な技術分裂の時代を開始する大規模な構造改革となるかもしれない。
ASMLのEUVリソグラフィ装置の最先端技術が利用できないことは、中国の半導体産業に対する野心にとって、最も重要な障害となっている。ASMLは「メーカーが当社の技術を複製したいと考えるのは理にかなっているが、決して簡単なことではない」とASMLはロイターに対しコメントした。
過去5年間、世界の半導体業界では「厳格な規制によって中国は技術面で数世代後れを取ることになる」と考えられてきた。
「必要に迫られて誕生したハイブリッド装置」と見なされる深センのEUVプロトタイプに関するニュースは、これらの障壁がなくなりつつあることを示している。この装置は、まだチップを量産できる状態にはなっていないものの、その存在は中国の半導体独立への道を加速させるだろう。2028年から2030年までに実現する可能性がある。これにより、世界のサプライチェーンのリスク見通しが変化することになるとみられる。
リソグラフィは「国家安全保障上の最重要目標」に
深センでのプロジェクトは、中国半導体の「マンハッタン・プロジェクト」と呼ばれ、過去の補助金を多用した商業主導の戦略とは一線を画している。中国政府はさまざまな民間企業に依存するのではなく、中核となるシステムインテグレーターをHuaweiに任せ、国全体で取り組むアプローチを採用している。
「中国の戦略は、敵対国が、外国技術へのアクセスを遮断した際の保険として、重要な分野の自給自足を促進することだ」と、Wall Street Journal北京支局上級特派員のBrian Spegele氏は主張する。「特に米国との関係が不安定になる中、中国の指導者たちは、その戦略に伴う高いコストには価値があると示唆している」
このアプローチは、Shanghai Institute of Optics and Fine Mechanics(SOIM)のような、国の研究機関と民間企業を結び付けている。リソグラフィは単なる産業目的ではなく、国家安全保障上の最重要目標なのだ。
技術的には、このプロトタイプは西側諸国の商業論理と中国の戦略的要請との乖離を浮き彫りにしている。ASMLはEUV光の生成にCO2レーザーを使用しているが、中国の研究者らは固体レーザー(solid-state laser)をベースにしている。ASMLは大量生産には効率が不十分であるため、この方法を採用していない。だが中国の研究チームは現在、3.42%の変換効率を報告しており、実用化に必要な閾値に近づいている。
この成果は、技術力だけでなく熟練した人材にも大きく依存している。同プロジェクトはASMLの優秀なエンジニアを積極的に採用しており、最大70万米ドルの契約料を提示することもあるという。ロイターによると、こうした「人材による情報収集」は、サイバースパイ活動だけでは得られない、システム統合に関する重要なノウハウを提供したという。
同時に、Huaweriはレーザーの代わりに高電圧放電を用いた、より簡単な選択肢であるレーザー誘起放電プラズマ(LDP)光源にも取り組んでいるとする。LDPは消費電力が少なく、バックアップの役割を果たす。規制がかかっているZeissのミラーを使用できず、レーザーシステムを大型化できない場合でも、LDPの採用によって、少量の軍事用チップであれば十分に製造できる可能性はある。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
