「AIの進化」に追い付けない半導体開発 解決の道筋は:「最初に規模を拡張」に潜むわな(3/3 ページ)
2026年1月に欧州で開催された「HiPEAC 2026」カンファレンスでは、AIの進化と半導体の進化に大きなギャップが生まれつつあることに対する懸念が示された。カンファレンスではこうしたギャップを解消するソリューションの他、熟練エンジニア不足にAIで対応する方法についても議論が行われた。
「生成されたコードは本当に正しいのか」
米国と欧州の研究者たちはいずれも、信頼性を重要視している。現状の生成AIでは、もっともらしい誤情報(ハルシネーション)を避けることが難しく、正しいように見えても実際には壊れているコードを作り出す場合がある。これは、ソフトウェアでは単に煩わしい問題だが、ハードウェアでは、1つのバグが1枚のシリコンウエハーを台無しにしかねないため、壊滅的な問題となる恐れがある。
Chen氏は「LLMはブレークスルーを達成しているが、正式な認証に失敗するコードを生成してしまう場合がある。有望視されてはいるが、われわれは常に『生成されたコードは正しいのか、それとも間違っているのか』という疑問に直面している」と警告する。
同氏はこうした問題に対応すべく、「Correct-by-Construction」(CxC:正しさを検証しながら系統的に開発する)というパラダイムを強化するフレームワーク「Proof2Silicon」を導入した。LLMに直接Verilogを記述させるのではなく、検証向けに開発された言語であるDafnyでコードを記述させるシステムなのだという。
数学定理証明により、直ちにこのコードのチェックが行われる。問題があれば、より小規模な「ポリシーエージェント」がエラーを見つけ出し、コードが正しいと証明されるまでプロンプトを修正する。そして初めて、ハードウェアに変換されるのだ。
Chen氏は「われわれは『Practice-by-Construction』手法を強化している。検証のフィードバックによって導かれる正しいプロンプト修正により、コストのかかる微調整を行わなくても、モデルを検証可能なコードへと導くことができる」と説明する。
このような新しい技術は、コンピュータの作り方を大きく変化させることになる。Chen氏は、既存のコンピュータ支援設計(CAD)から、「LLM支援設計(LAD:LLM-Aided Design)」への移行が進むと予測する。いずれは、エンジニアが設計ツールに話しかけて要件を説明し、AIが詳細やチェック、レイアウトなどを行うようになるだろう。
BSCのCervero氏は「これは、オープンソースプロジェクトの中でも、特にRISC-Vにとって重要なステップだ。チェックやコーディングなどのうんざりするような作業をAIに対応させることで、小規模なチームでも大手メーカーと競合できるようになる。われわれは、学術界やSME(中小企業)にアクセスを提供したいのだ。コンソーシアムの専門知識を活用することで、こうした人々がこのツールを活用し、業界へ参入するための準備を進められるようになる」と述べる。
2人の研究者はいずれも、ソフトウェアの進歩に合わせてハードウェア開発を加速させる必要があるとの見解で一致している。2035年までには、新しいAIモデルに遅れずついていくために自らを現場で変化させることができるハードウェア「自己改善型システム」が実現し、業界が現在直面している長い遅延を止められる見込みだという。
Chen氏は「この長い道のりは、まだ始まったばかりだ。持続可能なAIの実現への道は、アーキテクチャのインテリジェンスとアルゴリズムのインテリジェンスとが一致するシステムを構築することにある」と結論付けた。
【翻訳:滝本麻貴、田中留美、編集:EE Times Japan】
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
TSMCでも足りないAI需要 Rapidusにチャンスか
TSMCは2026年、生産能力拡大に向けて520億〜560億米ドル規模という記録的な設備投資を予定しているが、それでもAIチップ需要への対応には不十分とみられている。アナリストは、TSMCの競合企業が参入機会を得る可能性を指摘している。
NANDを再定義、HBMを補完するAI用メモリ技術「HBF」
NANDダイを複数積層して大容量化を図る「高帯域幅フラッシュ(HBF)」は、HBMを置き換えるのではなく補完するAI向けメモリ技術として期待が高まっている。本稿ではその最新動向を紹介する。
NORフラッシュにもAI需要の波、迫る供給危機
DRAMとNAND型フラッシュメモリの供給不足に続いて、もう1つのメモリ分野であるNOR型フラッシュメモリでも供給危機が発生しつつあり、値上げの可能性も報じられている。一方でAIアプリケーションがかつてない高密度を要求することから、3D構造化への期待も高まっている。
RISC-Vが自動車やHPCに本格進出 中国の「技術的自立」にも貢献
アカデミアで生まれたRISC-Vは現在、AIや高性能コンピューティング(HPC)、自動車をターゲットにする産業用命令セットアーキテクチャへと進化している。特に中国やインドが技術主権の確立に向けた政府支援を背景に導入を加速している一方、欧州では投資の分散と技術者不足によってビジネス化が課題に直面している。
AI普及で電力が足りない テック企業の電力会社投資が加速
生成AIの普及により深刻化する、データセンターの電力消費問題。ハイパースケーラー各社はどう取り組むのか。
Nexperia接収で得た教訓 半導体政策で欧州が直面するジレンマ
オランダ政府によるNexperia接収で、EU諸国では「半導体ビジネスにおいて政府がどこまで介入すべきか」という議論が巻き起こっている。