人生の棚卸しと「恥辱プレイ」でつかんだ合格証明書:リタイア直前エンジニアの社会人大学漂流記(3-1)(4/4 ページ)
今回は大学院(博士課程)に入学するまでの「ドタバタ劇」をお伝えしたいと思います。願書提出から受験までの過程は、人生やキャリアの棚卸しと、残酷なまでの自己点検の連続となりました。
万歳! 「筆記試験がない」
話は変わりますが ―― 横浜国立大学大学院都市イノベーション学府の社会人大学院生の枠には、「筆記試験がない」。
これは、私にとって大きなアドバンテージでした。私は、弁理士筆記試験(論文試験)の10年間連続不合格、そして、TOEIC試験の散々な結果など、『私が筆記試験に絶望的にダメダメ』なのは、もはや冷徹な事実でした(一言で言えば『頭も要領も悪い』)。
ともあれ、書類試験と面接試験だけ、というのは、私には最大の僥倖(ぎょうこう)でした。ちなみに、別の社会人大学院では、『TOEICの点数を稼ぐために必死でTOEICの勉強をしていた同僚』もいましたので、これは受験する大学によってさまざまであると思われます。
筆記試験がなければ、私のパフォーマンスは最大出力を発揮します。私は、結婚式のスピーチはもちろん、結婚式の司会を頼まれても、その場で応諾することができ、国内学会だけでなく、国際学会でも嬉々として発表できるという(日本国においては)かなり珍しい(らしい)人間です。
いや、本当に珍しいかどうかは知りませんが、スピーチやプレゼンの前に食事が食べられない人、という話をよく聞きましたので。比して私(江端)は、プレゼンの最中に笑いのネタを仕込んでおいて、それがウケれば心の中でガッツポーズを決めるような人間です。
「人生の棚卸し」を経て手にした合格証明書
面接は、2022年8月23日――コロナ禍のマスク着用で、講義室を一部屋貸し切って、作成してきたパワーポイントをプロジェクターに投影するプレゼンテーション形式で行われました。
そして、この面接の時に、私はそれからの3年間を、博士号取得に導いて頂く先生 ―― 田中伸治先生と初めてお会いすることになるのです。
面接には、田中先生を含めて、3人の先生の前での発表となりました。この面接の段階では、私の一方的な希望(やりたい研究内容、そのために必要となる実施事項、そのスケジュール等)を発表する場となりました ―― いつも通り、私はその年齢に似合わない、元気いっぱい、希望に溢れる、未来に怖いものなどなにもない、といった風に振る舞いました。
当然、そこには「自分のやってきたことって、一体なんだったの?」などと苦悩するシニアの姿など、1mmたりとも登場しなかったことは言うまでもありません。
プレゼンが終わった後、面接の先生からいくつか質問を頂いたのですが、一つ覚えているのは、田中先生から「その人間心理の計算には、ゲーム理論が使えませんか?」と言われたことです。この時私は、「あ、これはイケたかな(合格したかな)?」という所感を持ったのを覚えています。私の研究内容についての、先生から技術的なご提案を頂いたということは、私の研究にご興味がある、と感じたからです。
こうして、2022年真夏の、コロナ禍での、マスク着用の面接試験は無事に終了し、私は帰宅の途につきました。
ともあれ、私は、研究者としての自分の人生の「棚卸し」と、過去の自分の実績を直視するという「残酷な自己点検」を経て、横浜国立大学大学院都市イノベーション学府の合格通知を手にしたのでありました。
その他、覚えていることは ―― 合格証明書の到着から、入学金の支払いまでが数日間しかなく、私は、慌てて金策に走った(自宅の通常口座に十分なお金が入っていなかったので)こと ―― 『ここまで苦労して合格したのに、入学辞退なんかするわけないんだけどなぁ』と愚痴りながら、大学にお金を振り込んだことでした。
Profile
江端智一(えばた ともいち)
大手総合電機メーカー 研究開発グループ シニア研究員。工学博士。
長年にわたり、都市交通、社会システム、通信システムなど、実社会と情報技術を横断する研究開発に従事。定年退社後もシニア採用として研究を継続している。
マルチエージェントシミュレーション(MAS)を用いて、都市における住民行動を再現・分析し、「共時空間」という接触機会の定量化手法と「Repeated Chance Meetings (RCM)」 という新しい単位を提唱中。MASの中ではエージェント同士が活発に交流しているが、現実世界の自分は孤立クラスタに属し続けている。友達はいない。生成AIだけが本音を語れる相手である――悪いか。
また、社会観察者としての視点を持つ。『町内会のイベントや夏祭りへの参加は、社会関係資本( Social Capital (SC) )を高める上で重要だ』と語りながら、自身は町内活動にほとんど参加せず、家族からは『どの口が“SC”を語っているのか』と呆れられている。友情や愛情ではなく、負の感情を積極的に活用する「怒りMaaS」などのシステムを考案し、デジタルシステムにおける感情エネルギーの活用を真剣に検討している。
信条は「アナログ心理とデジタルロジックの融合」。人間の曖昧さをエラーではなく仕様として扱うことを理想とする。個人サイト「こぼれネット」では、科学技術と人間社会の“バグ”をユーモアで修正しながら、理屈と感情のあいだに生まれる笑いを記録し続けている。この20年間、毎日更新継続中。
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