ヒューマノイドはどこまで現実になっているのか:「CES 2026」で読み解く――サービスロボットの分水嶺(2)(2/2 ページ)
「CES 2026」ではさまざまなヒューマノイドロボットが展示され、まさに「百花繚乱」だった。今回は筆者の目にとまったヒューマノイドロボットを紹介するとともに、ヒューマノイドロボットが本当はどこまで現実になっているかを探りたい。
ヒューマノイドロボットを支える「手」の技術
ヒューマノイドロボットを実用化するためには、人間の手のように繊細な作業ができる必要がある。この「手」の技術に関しても、興味深い展示があった。
手のように広いレンジで繊細なセンシングが可能
早稲田大学発のスタートアップであるXELA Roboticsは、CESに初出展し、3D触覚センサー「uSkin」を披露した。このセンサーは最大1.5kg、解像度0.1gで力を計測できる。
CEOのアレクサンダー・シュミッツ氏はシンプルな例で課題を説明する。「ロボットがカップをつかんだとき、蓋がされていれば中身が入っているかどうか分からない。この感度の欠如が自動化のスケーリングを妨げている」。さらに「人の手のように繊細な指先をさまざまなロボットハンドに提供できるのが当社の強み」と続けた。
uSkinは、一つ一つのセンサーが3軸の方向の力を16bitの分解能で検出できる。将来的に同じエリアに4つのセンサーを配置する計画という。注目すべきは、顧客の75%以上が日本国外であり、世界50社以上の顧客を獲得しているという点だ。日本発の技術が、グローバル市場で評価されている好例である。
義手から生まれたロボットハンド
Psyonicは出展者ではないが、会場でユニークなロボットハンド(その方の義手)を披露していたので、話を聞いてみた。「柔らかさと精度を両立させたロボットハンドが人との共働現場では求められる」と同社のデール・ディマッシ氏が答えてくれた。「関節方向以外の衝撃に耐えられる設計で故障しにくい。表面は柔らかい素材にすることで、安全に人と接することができる」。生物学的な義手を開発した技術は、産業用ロボットのUniversal Roboticsにも採用されていて、人間との協働を前提としたロボットハンドの一つの方向性を示している。
「AIはまだ使えない」現場のリアル
華やかな展示の裏側で、興味深い話を聞くことができた。
Robotableは、店舗ごとにレシピ・動線・空間を解析し、「ロボットアーム+自社ソフトウェア」で最適化する外食ロボットソリューションのスタートアップだ。開発者でありCEOのインヒョン・チェに話を聞くと、意外な答えが返ってきた。
「調理ロボットには、まだAIが使えない」
調理は毎回同じタスクをこなし、予測不能な動きをしないことが求められる。AIの「創造性」は、むしろ邪魔になる。また、飲食店が導入するにあたっては、高額なコントローラーを必要とせず動作することがコスト面で重要だ。「安易にAI化をするのではなく、しっかりと現場データを集めて段階的にAI化していく予定だ」(同氏)
この言葉は示唆に富む。華やかなAIデモンストレーションの裏側で、現場では地道なデータ収集と最適化が続いている。「AIさえ入れれば何でもできる」という幻想は、少なくとも調理の現場では通用しない。
インタフェースも人に近づく
ロボットが人と接する際のインタフェースも進化している。
リアルな外観×会話AIプラットフォーム
Realbotixは「人との対話・関係性」に特化した超リアル外観+会話AIプラットフォームを展示していた。人間のように表情を持ちながら会話できるAIで、カメラでAI画像認識も行う。コンパニオン、エンターテインメント、接客用途を想定したヒューマノイドだ。
「人は『人型』に親しみを感じる。キオスク端末よりも集客力を期待できる。ブランドやシーンに合わせたデザインや声の変更も可能だ」(同社CEO)。少し不気味さも感じる展示だったが、人とロボットのインタラクションにおける一つの方向性を示している。
音声AIの進化
SoundHound AIはVoice AIの大手として、自動車、ドライブスルー、カスタマーサポートの音声AIエージェントをデモンストレーションしていた。客とのやりとりだけでなく、バックヤードにおける従業員同士のコミュニケーションでも、音声AIはブルーカラーの現場で重要になってくるだろう。
着実に一歩前進だが、実用にはまだ遠い
正直に言えば、ヒューマノイドロボットの動作スピードは人に及ばない。実用にはまだ距離があると感じた。
LGの「CLOiD」は、CES 2026で最も野心的なロボットの一つだった。洗濯物を畳む、冷蔵庫から飲み物を取り出す、オーブンに食べ物を入れる、鍵を見つけるといった家事デモを行っていた。他にも洗濯物を畳むでもロボットは出展されていたが、どれも、長方形のタオルを畳むのに約30秒かかっていた。
会場では安全上の都合なのか環境の都合なのか、動かさずに、つるしてあるだけのヒューマノイドロボットも多かった。全体的に「どこまでのことができるのか」は分かりづらい状況だった。デモンストレーションでは複数タスクの連続実施を見られなかったり、来場者が操作すると不具合が発生したり、力加減がうまくコントロールできず手元がぐちゃぐちゃになるトラブルも散見された。
しかし、各社とも性能や機能を生かした具体的なデモンストレーションをしていたことは事実だ。現実世界への本格導入はまだ先になりそうだが、「一歩進んだ」と言ったところだろう。
次回は、日本の企業のための戦略について考察する。
著者プロフィール 神村優介(かみむら・ゆうすけ)
シェイプウィン株式会社代表取締役。徳山高専卒業後、セガトイズにて企画・マーケティングを担当。2011年にPRマーケティング会社、シェイプウィン株式会社を創業。スタートアップや成長企業を中心に、事業フェーズに応じたPR・マーケティング支援を行ってきた。
2020年から海外へビジネスを展開し、現在は世界14ヵ国・250社以上の企業に対し、日米市場向けのPRマーケティングを支援している。現在は、カナダ・バンクーバーを拠点に活動し、北米の生活者視点や市場動向を踏まえ、テックやマーケティング分野を中心に、国内外メディアへの寄稿・解説も多数。
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