「装置は動くがプロセスが成立しない」――He供給危機とナフサ不足の本質:湯之上隆のナノフォーカス(90-1) He/ナフサ供給危機と半導体(1)(2/4 ページ)
半導体業界にとって、中東情勢に伴うヘリウム(He)供給逼迫(ひっぱく)およびナフサの不足は、思っている以上に深刻な影響をもたらす。本稿では、これら2つの材料の供給が途絶/不足するという危機の本質を、主要装置に与える影響を考察しながら、詳細に解説する。
1.3 CVD:装置構成による差が大きい
CVDはHe依存度が装置形式によって大きく異なる。
バッチ炉型のLPCVDや拡散炉に近い系では、ウエハー裏面Heに強く依存しない場合があり、He途絶の直撃は比較的弱い。一方で、枚葉CVD、特に高均一性が求められる金属CVDやPECVDでは、ウエハーとそのステージのペデスタルの熱結合を、裏面から供給するHeガスで調整する構成が典型的に使われている。
CVD関連特許では、背面ガスとしてHeを供給し200〜800℃の温度制御を行う記載があり(US7674636B2、US6905079B2等)、また別の特許では、W、金属、シリサイドCVDで背面に不活性熱伝達ガスを流す例が示されている。
ここで重要なのは、CVDの加熱源の主役はセラミックヒーターであるという点である。つまり、Heが無くても「加熱不能」にはなりにくい。しかし、Heは温度の面内均一化と微調整に決定的に効くため、Heが失われると、膜厚均一性、組成、応力、パーティクル、チャンバー汚れ、スループットに影響が出ることになる。
CVDのHe途絶リスクは、一般CVDで中程度、高精度な温度制御を必要とする枚葉CVDで極めて影響が大きい。現れ方は「停止」ではなく、高精度なクオリティーが必要な膜種から順に、歩留まりが悪化する現象として現れることになる。
1.4 ALD:パージは代替可、温度窓が狭いプロセスで高リスク
ALDのHe依存度は、一般論としては低めである。ALD関連特許(WO2020214732A1等)では、パージガスやキャリアガスとしてAr、N2、He、H2、forming gasなどが並列に挙がっており、「Heでなければ成立しない」という記述は存在しない。実運用でも、ArパージやN2キャリアは広く使われている(George, "Atomic Layer Deposition: An Overview," Chem. Rev. 110, 111-131, 2010)。従って、ALDでHe供給途絶が直ちに全面停止に結び付くとは言いにくい。
ただし、ALDは薄膜の原子層レベル制御が本質であり、温度制御のプロセスマージンが狭い工程では事情が変わる。低温ALD(High-k、メタルゲート前後)や3D NAND・DRAMなどの高アスペクト比構造向けALDでは、基板温度のわずかな差が吸着・反応・脱離・副反応のバランスを崩壊させる。ALD装置の温度制御に関する特許群は、基板温度と壁温を独立制御することの重要性を示しており、熱設計がそのまま膜質に直結することを前提にしている。
つまり、パージ用途は代替可でも、熱制御の精度が崩れると膜質・コンフォーマリティ・スループットが悪化してしまう。ALDのHe途絶リスクは、一般ALDで低〜中、低温・先端ALDで高リスクということになる。
1.5 PVD:主反応はAr、しかしウエハー温度制御面でHeが効く
PVDは多くの場合、成膜に使うキャリアガスはArであり、Heは主役のガスではない。PVDのキャリアガスとして、He依存は低い。
しかし、基板温度制御の面では、PVD系でも、Heを裏面から流すことによる熱伝達改善の技術がスタンダードとして使われている。関連特許では、熱伝達ガスをウエハー裏面に供給してガスギャップ熱コンダクタンスを上げる構成が示されており、領域別に圧力を制御して温度均一性を取る思想もエッチングと共通である。
つまりPVDでも、Heがなくても物理蒸着そのものは可能かもしれない。しかし、Heを裏面から流すことによる温度制御が、膜応力、結晶性、抵抗率、密着性、面内均一性に影響しやすい。例えば、ロジック半導体の多層配線層の膜応力は後工程のストレスマイグレーション耐性に直結するため、これは単なる品質問題ではなく、デバイス信頼性の問題でもある。
従って、PVD全体でのHe途絶リスクは中かもしれないが、ウエハー温度管理が厳しい膜種ではそのリスクは高いということになる。
1.6 エピ:H2主体で動くが、温度均一性で効いてくる
エピタキシャル成長装置(略してエピ装置)では、さらに切り分けが必要である。
Siエピの典型的な枚葉リアクタでは、キャリアガスの主役はH2であることが明確に示されており、エピ関連特許でもキャリア/パージガスはH2、N2、Ar、Heなどから選択可能とされている(US6562128B1等)。つまり、ガス搬送の意味でのHe必須性は低い。
ただし、エピ装置は、高温(典型的には800〜1100℃)かつ結晶成長そのものが温度均一性に極めて敏感である。ウエハー加熱時の反り(ウェハボウ)や温度むらを抑えるため、熱伝導率の高いガス、特にHe中での加熱が有利であるとする特許も存在する。つまり、エピ装置ではHeが主キャリアでなくても、昇温、均熱、反り抑制、温度むら低減に効く可能性がある。
エピ装置は、そもそもH2主体で動くため、He途絶による即停止リスクはCVD/ALD/PVDより低めである。しかし、最先端エピ(SiGeチャネル、選択エピ、GAA向けSiGe/Siエピ)では温度マージンが狭く、結晶欠陥や膜厚むらのリスクが高まる。エピのHe途絶リスクは低〜中、先端エピでかなり高いということになる。
1.7 装置別リスクの総合比較
以上の分析を、各装置の影響の深刻さで整理すると、He途絶リスクの強さは次の順となる(図2)
この図から、He供給途絶による影響は、ドライエッチング > 枚葉高精度CVD ≒ 温度プロセスマージンが狭いALD ≒ 温度管理の厳しいPVD > 先端エピ > 一般エピ > バッチ炉系CVD/一般ALD、となる。
この序列が示すのは、He供給途絶が産業を一斉に止めるのではなく、最もHe依存度の高い工程から順に崩れていくという事実である。具体的には、まず先端ドライエッチングが成立条件を失い、次いで枚葉高精度CVD、先端ALD、PVDの高精度膜種が歩留まり劣化に陥り、最後にエピの先端用途まで波及する。一般ALDやバッチCVDは比較的最後まで踏みとどまる。
1.8 本章の結論
以上から、He供給途絶の影響は次のように定式化できる。
He供給途絶の影響は、ドライエッチングで最も深刻に現れる。これはHeがウエハー裏面冷却を通じてエッチ速度・形状・寸法均一性を直接支えるためである。これに対し、CVD、ALD、PVD、エピでは、キャリア/パージ用途の一部はAr、N2、H2等への置換余地があるが、ウエハー裏面ガスによる熱制御や温度均一化ではHeの依存性が大きい。従って、これらの装置では直ちに全面停止に至るよりも、まず膜厚・組成・結晶性・応力・歩留まりの悪化として影響が顕在化し、最終的に高精度工程から成立が難しくなることが予測される。
重要なのは、この「歩留まりの悪化」は装置停止より見えにくいが、産業全体としての生産能力を確実に削る、という点である。先端ノードほどプロセスマージンが狭く、He代替余地が小さいため、最先端から順に崩れるという構造が生まれる。これは経済安全保障上、最も避けたい事態である。
警告すると、He供給途絶は、即死するドライエッチング以外の各種成膜装置では、ただちに装置停止として現れるのではない。最初に現れるのは、先端工程における品質劣化と歩留まり低下であり、それは「止まっていないから問題ない」と誤認されやすい。しかしその時点で、産業としての生産能力は既に不可逆的に低下している。
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