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He/ナフサ供給危機で工場新設も遅延? 装置/チップメーカーへの波及経路を探る湯之上隆のナノフォーカス(90-2) He/ナフサ供給危機と半導体(2)(2/4 ページ)

中国情勢に伴うヘリウム(He)とナフサの供給危機問題を解説するシリーズ。今回は、製造装置メーカーとチップメーカーへの波及経路をたどりながら、短期〜中長期的な影響を推測する。さらに、政府による「ナフサ4カ月在庫」議論が“的外れ”である理由を述べる。

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第5章:危機のタイムライン――1カ月・3カ月・6カ月で何が起きるか

 危機の全体像を時間軸で整理する。以下は、He供給途絶またはナフサ/PFAS供給逼迫のいずれかに本格的なショックが発生した場合のシナリオである。

5.1 第1フェーズ(0〜1カ月):在庫消費

 最初のフェーズで何が起こるか:

 チップメーカーと装置メーカーは手持ち在庫でしのぐことになる。ここでは、He、FFKMシール、PFPE潤滑油の在庫消費が始まる。しかし、補充はされない。その結果、時間がたつほど、保守部品のリードタイムが伸び始める。

 その後、Heやナフサ起因の部品や材料の価格が高騰する(予測では2〜5倍)。すると、どのような景色が見えるだろうか?

  1. 表面的には、半導体工場は正常稼働を続ける
  2. スポット市場でのHe価格急騰のニュース
  3. 一部装置メーカーからの納期延長通知

 この段階では、「まだ在庫があるから大丈夫」「価格が上がっただけ」という楽観論が支配的になる(一部の企業を除けば実際そうなっている)。政府も、「備蓄があるから問題ない」と発信する傾向がある。

 例えば、経済産業大臣は記者会見で「米国などからの代替調達の進展や、国内在庫の活用、国内精製を組み合わせることにより、化学品全体の国内需要約4カ月分を確保している」と述べた。こうした説明は石油備蓄法の枠組みの延長線上で、一見合理的に聞こえる。しかし、これが最も危険な誤認である(この点は第6章で詳述する)。

5.2 第2フェーズ(1〜3カ月):選択的影響の顕在化

 この時期まで中東情勢の悪化が続くと、何が起こるか:

  1. 先端ドライエッチング工程でHe配分優先が発生
  2. 先端ノード以外へのHe供給を絞り、先端に集中配分
  3. 定期メンテナンスの延期・簡略化が始まる
  4. 新規装置の納期が数カ月単位で延びる

 このような状態になると、半導体業界では何が起きることになるか。

  1. 特定製品(GPU、AI ASIC、HBM、先端DRAM、3D NAND)の供給逼迫報道
  2. 装置メーカーの業績下方修正
  3. スポット価格のさらなる高騰

 この段階での産業対応としては、チップメーカーは歩留まり維持のため、使えるリソースを先端ノードに集中させる。結果として、中位ノード(7nm〜28nm)およびそれ以上の成熟ノードなどの生産が先に圧迫される。これは自動車半導体、産業用半導体、民生用半導体の供給逼迫を招くことになる。

5.3 第3フェーズ(3〜6カ月):プロセス不成立の発生

 ここまで、事態が悪化し続けると、一体何が起こるだろうか。

  1. 複数工場で先端ドライエッチングの認定基準未達が発生
  2. 先端ノード歩留まりが計画値を大幅に下回る
  3. PFPE枯渇により真空ポンプの緊急整備が困難に
  4. FFKMシール交換が出来ず、装置の予定外停止が頻発

 そうなると、世界の半導体産業はどうなるだろうか。

  1. TSMC、Samsungなどの出荷ガイダンス下方修正
  2. Rapidus、Intel新ファブの立ち上げ遅延公表
  3. 装置メーカーのサービス契約の履行不能

 この段階での半導体工場では「止まっていないが動いていないし、チップもつくれない」という状態が広範に発生する。装置は並んでいるが、プロセスが認定を通らない。これは従来のBCPフレームワークでは捕捉できない事態である。

5.4 第4フェーズ(6カ月以上):世界の半導体産業のキャパシティーの不可逆的低下

 半年以上、中東情勢の悪化が続けば、半導体業界の惨状は目を覆うものになる。

  1. 先端ノード生産能力の構造的低下もしくは半導体工場停止
  2. 装置メーカーのアフターマーケット事業の縮小もしくは停止
  3. 認定済み部品・素材の枯渇
  4. 代替材料への切替検討開始(ただし認定作業には1〜2年以上を要する)

 以上の事態は、以下を引き起こすことになる。

  1. 世界的な半導体供給不足の本格化
  2. AI/データセンター産業への波及
  3. 完成品(自動車、スマートフォン、サーバ、各種電子機器)への供給影響
  4. 株式市場・為替市場への波及(シリコンサイクルの深い谷に墜落していく)

 回復時間について分析すると、一度断絶した認定サプライチェーンの再構築には、SEMI S2/S8認定、QVL(Qualified Vendor List)の再取得、プロセス再認定が必要であり、18〜24カ月を要する。これでも、最も楽観的なシナリオである。代替材料開発を伴う場合、3〜5年を要する。

5.5 タイムラインが示す非対称性

 このタイムラインで最も重要なのは「問題が見えるようになった時には、既に手遅れ」という非対称性である。

  • 第1フェーズ(0〜1カ月)で動けば、在庫再構築、代替サプライヤー認定、備蓄戦略変更が可能になるかもしれない
  • 第2フェーズ(1〜3カ月)で動けば、先端ノードへの影響を最小化できるかもしれない
  • 第3フェーズ(3〜6カ月)で動いても、既に歩留まりは落ちており、回復に年単位(手遅れ)
  • 第4フェーズ(6カ月以上)では:半導体産業の生産能力そのものが失われている(死に至った)

 現在(本稿執筆時点)は、第1フェーズと第2フェーズの境目にあると考えられる。Heのスポット価格は高止まりを続け、PFAS規制は進行中、ナフサ供給逼迫があちこちで散見される。つまり、「まだ何も起きていない」のではなく、「これから急激に見えるようになる」局面にある。

 警告は、危機の非線形性を過小評価してはならないということである。第1〜2フェーズでは表面的には静かに見える。しかしこの期間の対応の有無が、第3〜4フェーズの深刻度を決める。静かな期間こそ、最大の行動期間である。

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