「データの死蔵に耐えられないエンジニア」がたどり着いたMASの沼:リタイア直前エンジニアの社会人大学漂流記(4-2)(3/4 ページ)
今回は「MATSim」の解説をいったんお休みします(なぜなら恐ろしい分量になり、編集者が青ざめるから)。代わりに、私がなぜ「MAS(マルチエージェントシミュレーション)」にたどり着いたのか、そして私にとってMASが持つ可能性とは何なのかをお話したいと思います。
第5の方向:MASという私の試み
ここで出てくるのが、MASです。ただし、これが唯一の「解決策」というわけではありません。あくまで「こういうやり方もあるのではないか」という、かなり個人的な思い込みです。
MASでは、
- 個人の属性
- 行動の傾向
- 空間の情報
といったものを、一つのモデルの中に組み込むことができます。
つまり、「これまで別々に扱っていたデータを、同じ枠組みで扱う」ことが可能になります。
もちろん、MASは仮定も多く、結果の扱いにも注意が必要で、モデリング自体も簡単ではないなど、課題が山ほどあります。それでも私にとっては「一度使ったデータを、別の方法で再利用する」という点に意味があるのです。
ここで初めて、データが「結果」で終わらず、「動く仕組み」として再利用され、条件を変えることを試す、というビジョンが見えてきます。
第6の展開:MASで何が「見えるようになる(と私が考えている)のか」
ここまでで、(1)データは存在している → (2)データは個別に使われている → (3)それを一度まとめて扱えないかという疑問 → (4)その方法の一つとしてのMAS、という流れを見てきました。
では、MASを使うことで、どのようなことが扱えるようになるか。下記の図は、私の考えを整理したものです。
まず図の左側では、MASの基本的な考え方を示しています。ここでは、これまで別々に扱われてきたものを、同じ枠組みの中で扱います。
(1)時間:過去・現在・将来を、同じ枠組みで扱います。
これにより、「これまで何が起きたか」だけでなく、「その先にどう変化し得るか」まで、一貫して考えることができます。
(2)空間:地域や環境を、「人が動く場」として扱います。
これにより、特定の場所に閉じずに、変化の広がりを考えることができます。
(3)人:個人を、それぞれの違いを持つ主体として扱います。
これにより、「平均的な結果」ではなく、ばらつきを含めた動きを扱うことができます。
(4)関係(相互作用):人と環境の関係を、一つの枠組みとして扱います。
これにより、「条件を変えたときに何が起き得るか」を試すことができるようになります。
図の中央から右側では、これらを組み合わせたときに出てくるアウトプットの例を示しています。
例えば、時間の変化により人の状態は変わり、環境の変化によりサービスや条件も変わります。その結果として、人の移動や接触の仕方も変わっていきます。これらは、それぞれ単独でも扱われてきた内容です。
しかし、「時間」「空間」「人」「関係」を同時に扱うことで、個別では見えにくかった変化の組み合わせとして捉えることができるようになる――と私は考えているのです。
ここで重要なのは「未来を正確に当てる」ことではありません。むしろ、「条件を変えたときに、どのように変わり得るのかを試す」ことにあります。つまり、この図が示しているのは、「未来を断言する」ことではなく、「いくつかの可能な変化を、試しに見に行く」という考え方です。
MASは、未来を予測するための道具というよりも、「既にあるデータを使って、変化の可能性を試してみるための道具」として、私は捉えています。
……と、ここまで少し理屈っぽく書いてきましたが、正直なところを言えば、この一言に尽きます。
「MASは楽しいんですよ。仮想世界の創造者になったような気分になれます」
さて、今回のMASの解説ですが、本命の「MATSimの解説」が1行もでてきませんでした。実は、これまでの検討で、「MATSimであってもできないこと」が、かなりはっきりしてきました(ちゃんと技術的なウラを取った話です)。加えて、「それでも、私たちがMATSimを選ぶとおいしいこと」も、たくさん分かってきました。
今回、それを論じると、ページ数が恐ろしいことになることが予想されました。村尾さん(EE Times Japan編集長)が青ざめると断定できるレベルでしたので、今回は、インターミッション(休憩)と位置付けして、『江端の愚痴(ぐち)』にお付き合い頂きました。
では、また次回にお会いしましょう。
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