SiC LSIの事業化に挑む 28年以降ADCのサンプル出荷へ:京都大学 工学研究科 准教授 金子光顕氏(2/3 ページ)
京都大学 工学研究科 准教授の金子光顕氏は、炭化ケイ素(SiC)を用いた高温動作LSIの研究開発と事業化に取り組んでいる。まずは高温環境向けのA-Dコンバーター(ADC)開発を進め、2028〜2029年ごろのサンプル出荷を目指す。SiC LSIの可能性や社会実装に向けた課題、事業化の展望について聞いた。
2028年以降にSiC製ADCのサンプル出荷へ
――現在、事業化に向けたデバイス開発はどこまで進んでいますか。
金子氏 2025年度は、京都大学で開発したデバイスがウエハースケールで正常に動作するかの検証を行った。2026年度以降は実用的な回路の試作を進めていく。2028〜2029年度ごろにはサンプル出荷を開始することを目標としている。事業化はそれ以降の、顧客に「これは本当に使えそうだ」と思ってもらえるタイミングで行う考えだ。
まずは回路が複雑でないデバイスとして、A-Dコンバーター(ADC)の開発を目指している。ADCの用途として現在想定するのは、地熱開発などの際に地下の状態を調べる技術であるダウンホールロギングだ。地下深くは高温環境なので、現在は断熱や冷却を工夫した上でSi LSIを用い、30〜40分程度の短時間の作業を繰り返している。SiCのADCを用いれば、長時間の連続測定が可能になる。
――SiC LSIの応用領域は他に何が想定されていますか。金星探査などはニッチな用途ですが、ビジネスとして成り立つのでしょうか。
金子氏 前述のダウンホールロギングに加えて、航空機も想定できる。航空機のエンジン制御においては大量のセンサーやアクチュエーターをエンジン近傍に設置する必要があるが、その信号処理を行うLSIは高温にならないよう離れたところに置かれる。SiCの高温動作LSIが実現すれば、LSIをセンサー/アクチュエーター近傍に設置でき、配線を大幅に簡略化できる。そうなると、ケーブルの削減で数百キログラムの軽量化が見込める。また、コネクターピンを減らすことで信頼性向上にもつながる。同様に、プラントの燃焼炉内部のモニタリングなどにも利用できるだろう。
加えて、現在はSi LSIが動作しないほどの高温領域をターゲットとしているが、将来的にはSiと競合する動作温度範囲も視野に入れている。SiCの熱伝導性の高さを生かして、システムの冷却機構の簡略化やそれに伴う小型/軽量化が見込めるからだ。そうなると、市場は大きく広がる可能性がある。
――そうした用途を見据え、どのような形での事業化を考えていますか。
金子氏 事業化する際のビジネスモデルとしてはファブレスを想定している。それが市場で一定の評価を得られれば、相補型JFETに関して保有している特許を生かし、ライセンシングビジネスを行う可能性もあるだろう。
資金については、関西スタートアップアカデミア・コアリション(KSAC)が行うスタートアップ支援事業であるKSAC-GAPファンドによる「第2回スタートアップ創出プログラム」で支援を受けた。また、三菱商事からの寄付金で京都大学が運営する起業支援プログラム「京都大学・三菱商事Startup Catapult」にも採択され支援を受けている。さらに、京都大学が設立したベンチャーキャピタルである京都大学イノベーションキャピタル(京都iCAP)から人的支援を受けている。
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