メモリ市場が大爆発 「5年の壁」を乗り越えられるか:湯之上隆のナノフォーカス(93)(2/4 ページ)
AIの強烈な追い風に吹かれ、メモリ市場が「大爆発」している。この「メモリバブル」はいつまで続くのか。メモリ市場の歴史とともに考えてみたい。併せて、超好況のいまだからこそやっておきたい「不況への備え」を提言する。
原因はメモリ価格・ウエハー価格の異常な高騰
なぜここまでメモリ市場が膨張するのか。ここで重要なのは、この爆発が単に「たくさん売れている」という出荷数量の増加によるものではない、という点である。最大の要因は、メモリ価格そのものの異常な高騰にある。
図5は、DRAM(DDR5 16Gb 2Gx8)のSpot価格と、NAND(1Tb TLC Wafer)のウエハー価格の推移を示している。DRAMのSpot価格は、2025年初頭にはわずか4.7ドルだった。それが直近では46.0ドルへと、約10倍に高騰している。NANDのウエハー価格も、2.4ドルから25.0ドルへと、こちらも約10倍に跳ね上がっている。
つまり、市場規模が金額ベースで約10倍になった最大の理由は、出荷数量が10倍になったからではなく、「単価」が約10倍に高騰したからなのである。同じ量のメモリを売っても、売り上げは10倍になる。これが、メモリ市場の金額ベースでの大爆発のからくりだ。
メモリメーカーにとっては、これ以上ない好環境である。なにしろ、設備投資をさほど増やさなくても、価格が勝手に上がっていくのだから、利益率は劇的に改善する。後述するように、メモリメーカーの株価が高騰しているのも、この異常な価格上昇による収益急拡大が背景にある。
価格高騰の背景―ハイパースケーラーの異常な巨額投資
では、なぜメモリ価格がここまで高騰するのか。需要が供給を大幅に上回っているからだが、その需要の源泉をたどっていくと、ハイパースケーラーによる、文字通り異常としか言いようのない巨額投資に行き着く。
図6は、ハイパースケーラー上位4社(Amazon、Google、Microsoft、Meta)の設備投資額の推移を示している。2015年には、4社合計でわずか210億ドルだった。それでも当時としては「巨額」と見なされていた。
ところが、2022年11月にOpenAIがChatGPTを公開し、生成AIブームに火がついて以降、この設備投資の上昇カーブが急激に立ち上がる。2025年には4社合計で3550億ドル、そして2026年予測では実に7550億ドルにまで達する見込みである。2015年からたった10年あまりで、約36倍という、想像を絶する投資ラッシュだ。
7550億ドルという金額は、日本円にすれば120兆円を優に超える。日本の国家予算(一般会計)に匹敵する規模の資金を、わずか4社が1年間でデータセンターやAIインフラに注ぎ込もうとしているのである。これがいかに常軌を逸した事態であるか、お分かりいただけるだろう。
AIデータセンターという「ブラックホール」
この巨額投資の行き着く先が、AIデータセンターである。図7は、いま起きている事態を模式的に表したものだ。
ハイパースケーラーが競うようにAIデータセンターに投資した結果、AIの学習・推論に不可欠な半導体―すなわちNVIDIAなどのGPU、GPUに搭載する広帯域メモリ(HBM)、そして大容量ストレージとしてNANDフラッシュメモリを搭載したSSDが、AIデータセンターという「ブラックホール」に次々と吸い込まれていく。
メモリメーカーは、利益率の高いHBMやデータセンター向けの高性能DRAMおよびNANDの生産を最優先する。当然の経営判断である。その結果、製造ラインのキャパシティーはAI向けに振り向けられ、それ以外の用途に回る分が激減していく。
そのしわ寄せを最も激しく受けているのが、PC、スマートフォン、ゲーム機などのデジタル家電(民生機器)向けのDRAMやNANDである。これらの製品向けメモリは極端に不足し、「まったく足りない」状態に陥っている。
供給能力が限られる中で、AIデータセンター向けに需要が一極集中すれば、当然ながら民生機器向けのメモリは枯渇する。そして、限られた供給を奪い合う形となり、価格が急騰する。これが、前述したメモリ価格の異常な高騰へと直結しているのである。
実際、PCメーカーやスマートフォンメーカーからは、メモリが手に入らない、調達コストが急騰して製品価格に転嫁せざるを得ない、という悲鳴が上がり始めている。AIの繁栄の陰で、私たちの身近なデジタル機器が値上がりし、あるいは品不足に陥るという皮肉な事態が、既に現実のものとなりつつある。
半導体市場予測は「まったく外れた」
筆者は2023年に、2032年までの世界半導体市場予測を行った(参考文献1)。それが図8である。過去の半導体産業の歴史を分析し、「PC効果」「インターネット効果」「スマホ効果」、そしてこれから訪れる「AI半導体効果」を織り込んで、半導体市場はおおむね「10年で2倍」のペースで成長すると見ていた。この予測では、2032年に約1.2兆ドルに達するというものだった。当時としては、かなり強気の予測だったつもりである。
しかし、この予測はまったく外れてしまった。それも、控えめすぎて外れたのである。
図9を見てほしい。WSTS(世界半導体統計)の2026年春季予測によれば、世界半導体市場は2024年に6305億ドル、2025年に7956億ドル、そして2026年には1兆5112億ドルと、ついに1.5兆ドルを超える。さらに2027年には1兆9137億ドルと、2兆ドルに迫る勢いで拡大するというのである。
筆者が「2032年に1.2兆ドル」と見ていた水準を、市場はわずか数年で軽々と飛び越えてしまった。2032年の予測値を、2026年の時点で達成してしまうのである。これは予測が「甘かった」のではなく、AIブームの破壊力が、これまでの半導体産業の常識を全て覆してしまった、ということを意味している。
図10を見れば、この急成長をけん引しているのが、DRAMとNANDを含むMos Memoryと、GPUを含むLogicであることが明確だ。Mos Memoryは2027年に1兆ドルを超える勢いで、これは前述したDRAM+NANDの爆発的拡大が反映されている。Logicも5000億ドルを突破する。
一方で、AnalogやMos Microはほぼ横ばいに近い。つまり、半導体市場全体が均等に伸びているのではなく、AI関連の2カテゴリーだけが異次元の角度で立ち上がり、市場全体を押し上げているのである。これは、極めていびつな成長構造だと言わざるを得ない。
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![図5 DRAM(DDR5 16Gb 2Gx8)とNAND(1Tb TLC Wafer)のSpot価格の高騰[クリックで拡大] 出所:TrendForceの「データトラック」のデータを基に筆者作成](https://image.itmedia.co.jp/ee/articles/2607/07/mm260705_nano05.jpg)

![図7 なぜDRAM&NAND価格が高騰するのか[クリックで拡大]](https://image.itmedia.co.jp/ee/articles/2607/07/mm260705_nano07.jpg)
![図8 2023年に行った世界半導体市場予測[クリックで拡大] 出所:WSTSのデータおよび筆者予測を基に作成](https://image.itmedia.co.jp/ee/articles/2607/07/mm260705_nano08.jpg)

