検索
特集

GoogleとMarvellの提携に見る「AIアーキテクチャ」の変化カスタムシリコンの拡充(1/2 ページ)

GoogleがMarvell Technologyと、カスタムシリコン関連の契約を締結した。そこから読み取れるのは、AIアーキテクチャの変化だ。

Share
Tweet
LINE
Hatena

 GoogleがMarvell Technology(以下、Marvell)との間でカスタムシリコン関連の契約を締結した。その潜在的な規模の大きさに注目が集まっているが、今回の契約においてより重要なのは、その幅広さではないだろうか。

 この契約は、Googleが汎用アクセラレーターの代替として10年以上にわたり開発を手掛けてきたTPU(Tensor Processing Unit)の枠を優に超える。Marvellによると、今回の協業には、AI推論アクセラレーターや、ストレージコントローラー、ネットワークインタフェースコントローラー、メモリインタフェースコントローラー、ニアメモリコンピュートなども含まれるという。

 これは、GoogleがTPUの背後にあるロジックを、AIデータセンターの深部にまで拡大しつつあるということを示唆する。特殊シリコンでAIコンピュートの経済性を高めることが可能なら、なぜアクセラレーターだけに留めるのだろうか。

 今のところ、両社の提携の範囲について公に詳しく説明しているのはMarvell側であり、Googleは個別に発表を行っていない。このため、MarvellのForm 8-Kや、それに続く業績発表でのコメントが、今回の契約の詳細に関する主要な公開情報源となっている。

 また今回の契約には、異例の新株引受権(ワラント)が含まれており、GoogleがMarvellの株式約5900万株を、1株当たり206.58米ドルで取得するという。これらの株式の大半は、Googleが条件を満たしたカスタム製品を調達するごとに、漸進的に権利が付与されることになっていて、株式報酬は実質的に、Marvellの2033会計年度までの累計売上高1200億米ドルと連動することになる。このため、この1200億米ドルという数字は、Googleの調達コミットメントを保証するものではなく、ワラントの権利が完全に確定した場合の最大レベルの売上高を示している。

 MarvellのCEOであるMatt Murphy氏は、2026年8月27日に行われた同社の2027年第2四半期決算説明会において、「このワラントには、既に実行中のプログラムや、新しいデザインウィン、将来的に実行する可能性があるプログラムなども含まれる。今回の契約によって2028会計年度までの対象となる売上高は、既にMarvellが以前に提示していた業績予測の中に含まれている。その影響が徐々に大きくなっていくのは、恐らく2029会計年度からになる見込みだ」と述べている。

TPU周辺にカスタムシリコンを配置

Futurum Group Brendan Burke氏
Futurum Group Brendan Burke氏

 Futurum Groupの半導体/サプライチェーン/新興技術部門担当リサーチディレクターを務めるBrendan Burke氏によると、今回の契約は、Marvellが、同じくGoogleと提携しているBroadcomからTPUを奪うということを示すわけではない。GoogleがTPU周辺に、カスタムシリコンを追加で構築していくということだ。

 Burke氏は米国EE Timesの取材に対し、「この契約により、市場全体のパイが拡大する」と述べる。

 「Broadcomは引き続き中核的なTPUプログラムに関与し、一方でGoogleが、システムの他の場所に特殊なチップを追加していくのではないだろうか。Googleは、TPUの成功により、カスタムシリコンを推論やメモリ、ストレージ、ネットワーキングなどにも適用しようとしていることから、NVIDIAやAMDのようなメーカーが提供している幅広いポートフォリオとよく似た、幅広い独自のデータセンター向けシリコンを手に入れる可能性がある」(Burke氏)

AIアーキテクチャの変化を反映した動き

 このような拡大は、AIアーキテクチャにおける幅広い変化を反映している。メモリやデータ移動は、かつてプロセッサを中心としたサポート機能として扱われていたが、現在では全体的なシステム性能における重要性がますます増している。

 Murphy氏は、Marvellの決算発表会でも同様の主張をしている。同氏は「Marvellは何年も前から、『カスタム化は最終的に、アクセラレーターだけに限定されたままではなく、“ネットワークの全てのホップ”へと広がっていくだろう』と主張してきた。そしてその5年後、Marvellはますますそれを目の当たりにするようになった」と述べる。

 このような移行は、AIが大規模なトレーニング実行から、膨大な量のトークンを経済的に生成しなければならない推論ワークロードへと移行する中で、特に重要だといえる。

Compute ExchangeのCEOを務めるCarmen Li氏
Compute ExchangeのCEOを務めるCarmen Li氏

 コンピュート関連の価格決定やベンチマーキング、市場データを提供するSilicon Dataと、コンピュート能力の調達/販売向けマーケットプレースであるCompute ExchangeのCEOを務めるCarmen Li氏によると、ハイパースケーラーにとって、カスタムシリコンの経済性は、小規模なクラウドプロバイダーが直面しているものとは異なるという。

 Li氏はEE Timesの取材に応じ、「ベアメタルアクセラレーター能力を販売するネオクラウドの顧客は、NVIDIAの『H100』や『B200』を明示的に求める場合がある。それとは対照的に、GoogleやAWS、Microsoftは、サービスやワークロード成果物を提供する場合が多い。顧客企業は、レイテンシやスループット、推論ワークロードを実行する場合のコストなどには関心を持つが、それをどのプロセッサが実行しているのかは知らず、また気にもしない場合がある」と述べている。

 「顧客企業は、自分たちが使いたいものを使うことができる」(Li氏)

 このためハイパースケーラーは、経済性が向上する場合には、適切なワークロードを独自のシリコンへ自由に移行させることができる。Li氏は「もしGoogleが、必要なサービスレベルをTPUや他の特殊なASICでより低コストに提供できるのなら、顧客企業にとって、汎用GPUにこだわる理由はほとんどないといえるだろう」と述べる。

 しかしこれは、全てのワークロードがASICに適しているということではない。「全てはワークフロー次第だ」とLi氏は述べる。

 比較的安定したワークロードは、ハイパースケーラーが要件を予測し、それに応じてシリコンを設計できるため、容易に最適化することができる。新しいマルチモーダルアプリケーションのような、急速に変化するワークロードは、特殊なハードウェアの順応性が低い可能性があるため、リスクがより大きくなる。

 これはつまり、ハイパースケーラーは、予測可能なワークロード向けにはカスタムアクセラレーターを、そして柔軟性に価値を置く場合には汎用GPUを用いるというように、混在状態を維持する可能性があるということだ。

 繰り返し発生するワークロードは、コストや電力、性能を中心として最適化できる可能性があるため、推論ではこの予測がより説得力のあるものになる。Murphy氏は、「AIインフラメーカーは、業界が『収益化時代』へと突入する中で、各トークンの生成に伴って生じるコストや性能に、ますます注目するようになっている」と述べる。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

       | 次のページへ
ページトップに戻る