生体内の微小な圧力を測る蛍光ナノセンサー 東京科学大ら:静水圧を正確にモニタリング
東京科学大学は、東京農工大学や九州大学と共同で、静水圧をリアルタイムで計測できる高感度の蛍光ナノセンサー「Pyr-PICsome」を開発した。ナノプローブとして用いれば、深海生物や生体内の微小空間における圧力の変化を計測できる。
高分子ナノカプセル「PICsome」に着目、架橋度で膜の硬さを制御
東京科学大学物質理工学院材料系の水野隼斗助教と安楽泰孝准教授は2026年10月、東京農工大学の赤木友紀准教授、九州大学先導物質化学研究所の福原学教授らと共同で、静水圧をリアルタイムで計測できる高感度の蛍光ナノセンサー「Pyr-PICsome」を開発したと発表した。ナノプローブとして用いれば、深海生物や生体内の微小環境における圧力の変化を計測できる。
静水圧とは、水などの液体が静止した状態で、その中にある対象物に対し全方向から均等にかかる圧力だ。細胞や生体組織の内部でも働いていて、生命活動に影響を与えている。ただ、ナノスケールの微小な空間内における圧力を高い精度で計測できる実用的な圧力センサーはこれまでなかったという。
研究グループは今回、ポリイオンコンプレックスベシクル(PICsome:ピクソーム)と呼ばれる高分子ナノカプセルに着目した。カプセル膜の化学的な結合度(架橋度)を変えることで、カプセルサイズを約100nmに保ちながら、膜の硬さ(弾性率)を7.3〜39pN/nmの範囲で制御できる技術を開発した。
左図はPyr-PICsomeの合成スキーム。右上図は異なる架橋剤添加濃度で調製したPyr-PICsomeのサイズ分布。右下図は異なる架橋剤添加濃度で調製したPyr-PICsomeの原子間力顕微鏡像[クリックで拡大] 出所:東京科学大学他
このナノカプセル膜にピレン分子を共有結合で固定した「Pyr-PICsome」を合成し、高い水圧下における特性を検証した。この結果、カプセルの硬さを調整すれば、圧力に対する感度を自在にプログラミングできることが分かった。
例えば、7.3pN/nmという最も柔らかい膜のナノセンサーは、圧力を受けると膜内でピレン分子が接近してエキシマ発光が生じる。39pN/nmという最も硬い膜のナノセンサーに比べ、約14倍の圧力感度を示した。しかも、完全な水溶性を有していて、塩濃度が高い海水やたんぱく質が多く含まれる細胞培養液中でも、カプセルが破壊/凝集することなく安定して動作することを確認した。
試作したセンサーが発するエキシマ蛍光の寿命(約55〜75ナノ秒)は、生体が放つ自然なノイズ光(自家蛍光=5ナノ秒未満)に比べ10倍以上も長い。このため、時間的なフィルタリングを行えば、自家蛍光などの背景ノイズに惑わされることなく圧力データを抽出できるという。
静水圧を0.1MPaから50MPaまで変化させた時の、粒子の硬さに応じたピレンのエキシマ/モノマー蛍光比の変化(左図)と、粒子の硬さに応じたピレン(エキシマ)蛍光寿命の変化(右図)[クリックで拡大] 出所:東京科学大学他
研究グループは今後、ナノセンサー表面に特定の細胞や組織を認識する分子(リガンド)を修飾することで、狙った病変部位の細胞間隙や細胞内微小環境の圧力をピンポイントで捉えることができる「バイオイメージングツール」の実用化を目指す考えだ。
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