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Infineon初のRISC-V車載マイコン、その実力と開発戦略を聞いた:2027年上半期にサンプル出荷へ(3/3 ページ)

Infineon Technologies(以下、Infineon)が、同社初となるRISC-V採用車載マイコンを開発し、2027年上半期にサンプル出荷する。EE Times Japanは、同社で車載MCU事業を統括するThomas Boehm氏にインタビューを実施。その開発背景や技術的な特徴、今後の製品戦略などを聞いた。

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AI処理をエッジに分散、ロボティクスにも展開

 AURIX RC1では、エッジAI向けの演算機能も強化する。Boehm氏は、自動運転向けの高性能SoCが担う大規模なAI処理と、車両の各所に分散したエッジノードで必要となるAI処理では、求められる性能や消費電力、コストが異なると説明する。

 例えば自動運転向けの高性能SoCでは、カメラやレーダーから得られる大量のセンサーデータを処理するため、高性能なAIアクセラレーターが必要になる。一方、エッジノードでは比較的小規模なAIモデルを低消費電力かつ低コストで実行することが重要になる。

 こうした要求に対応するため、AURIX RC1では従来のAURIXにも搭載してきた並列処理ユニット(PPU)を強化する。Boehm氏は「比較的単純なベクトル演算から、PPUを利用した複雑なアルゴリズムの実行まで、用途に応じて演算能力を拡張できる」と説明する。

 高度な演算処理が求められる用途として、Boehm氏はバッテリー管理や車両運動制御を例示した。バッテリー管理では、セルの化学的な挙動をモデル化するために複雑な演算が必要になる。また、車両運動制御では、運転者の特性に応じて車両の挙動を調整するような処理も想定している。

 Boehm氏によると、車両やロボットのシステム設計では、演算処理の配置、通信ネットワーク、電力供給に加え、AI推論をどこで実行するかが重要になっているという。例えば電力変換システムでは、数百kHzの高速な制御が求められる場合がある。こうした用途では、ネットワークを介して中央コンピュータで処理するだけの時間的な余裕がないため、必要な演算をエッジノードで実行しなければならない。Boehm氏は「全ての演算を中央で処理することが、必ずしも最善の解決策ではない」と強調する。

 具体例として挙げるのが、モーター制御におけるセンサーの代替だ。物理モデルやシミュレーションをリアルタイムで計算し、従来はセンサーから取得していた情報を推定する。厳しい時間的制約がある上、アクチュエーターへの直接アクセスも必要になるため、ローカルでの演算が求められるという。

 Infineonは、こうした技術を産業機器やロボティクス、フィジカルAIにも展開する方針だ。Boehm氏は「自動車とロボットには制御技術の面で多くの共通点がある」と説明。例えば、自動車の電動パワーステアリングと、ヒューマノイドロボットの腕や関節には、いずれも高度なモーター制御が必要だ。バッテリー管理も両者に共通する用途になる。Boehm氏は、ヒューマノイドロボットの複数の自由度やモーターを持つ関節制御を例に挙げ「こうした複雑な制御にも、今後AI機能が必要になる」との見方を示した。

 AURIX RC1では、共通のハードウェア/ソフトウェアアーキテクチャを基盤として、車両やロボットの小型エッジノードから、高性能な車載コンピュータやロボットの中央制御システムまで、幅広い性能要件に対応することを目指す。

Infineonで車載MCU事業を統括するThomas Boehm氏
Infineonで車載MCU事業を統括するThomas Boehm氏 出所:Infineon Technologies

AIでソフトウェア移行を支援、日本企業とも協業

 新しいCPUアーキテクチャの採用に伴い、既存ソフトウェアの移行も重要な課題になる。Infineonは、ソフトウェアエコシステム「DRIVECORE」によってAURIX RC1の開発を支援する。DRIVECOREは、Infineonとエコシステムパートナーが開発したソフトウェアを、あらかじめ統合したパッケージとして提供するものだ。AUTOSARやオープンソースソフトウェアに対応するほか、仮想プロトタイピングやAIを活用したソフトウェア移行ツールなども提供する。

 Boehm氏は、現在の車載ソフトウェア開発ではモデルベース開発が広く利用されていることを指摘する。「開発者は、より抽象度の高いレベルでモデルを扱っている。実際の機能を実現するコードは、そのモデルから生成される」と説明。こうした開発手法の普及によって、TriCore、Arm、RISC-Vといった異なるCPUアーキテクチャ間でのコード移植は、以前ほど中心的な問題ではなくなっているという。

 一方、Boehm氏は「重要なのは、周辺機能などを引き続き利用できることだ。機能安全やセキュリティの仕組みも同様で、こうした部分では高い互換性を維持しようとしている」と強調する。

 さらに、AIを活用したソフトウェア移行技術も進展しているという。Boehm氏は「ソフトウェアアーキテクチャの一部では、AIを活用したツールによって、異なるアーキテクチャ間の移植を非常にうまく実行できるようになっている」と説明。Infineonはこの分野でも顧客と共同開発を進めていて、特に過去約12カ月で技術の進展を強く実感しているという。Infineonは日本企業とも、AIを活用したソフトウェア開発に関する共同プロジェクトを進めている。Boehm氏によると、顧客からは良好なフィードバックを得ているという。

2029〜2030年ごろの量産開始を想定

 Infineonは、2026年11月10〜13日にドイツ・ミュンヘンで開催される「electronica 2026」でAURIX RC1のコンセプトを紹介する。2027年上半期にサンプル提供を開始し、2029〜2030年ごろの量産開始を見込む。

 Boehm氏によると、最初の採用用途として想定しているのは次世代のゾーンコンピュータだ。今後はSDVやシャシー制御、グラフィックスなど、用途に応じた複数のサブファミリーを展開する計画だという。

 市場の見解についてBoehm氏は、特にアジアでは新技術の採用が速いと説明。「現在、AURIX RC1について顧客と協議を進めているが、RISC-Vのような新技術を採用した製品に対して、既に非常に高い需要がある」と語る。また、自動車以外の用途にも事業領域を広げる動きが見られるという。Boehm氏は「多くの顧客が自動車分野を引き続き重視する一方で、ロボティクスなどにも目を向けている。両分野の要求事項には非常に高い共通性がある」と説明。こうした動きはアジアだけでなく、米国や欧州でも見られるという。

 日本市場についても、顧客と積極的に協議を進めている。Boehm氏は「特に日本の顧客では、制御アプリケーションにAIを利用することへの需要が高いと感じている」と説明。エッジでのAI推論や車両運動制御へのAI活用を挙げ、「日本の顧客にとって非常に重要なテーマであり、今後もそうあり続けるだろう」との見方を示した。

 Boehm氏は、地域によって新技術の採用速度や重点分野に違いはあるものの、拡張性の高い製品ファミリーによって世界各地の幅広い顧客や用途に対応できると強調した。InfineonはAURIX RC1の展開を通じ、2030年以降の市場シェア拡大を目指す。

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