第10回 エミッタ接地回路のサプリメント 〜 ベース接地回路 〜:Analog ABC(アナログ技術基礎講座)(1/2 ページ)
今回は前回に引き続き、エミッタ接地回路の特性を向上させるサプリメントのような「ベース接地回路」を紹介します。ベース接地回路を使えば、増幅回路の周波数特性の改善が図れます。
前回は、エミッタ接地回路を2段接続し、その間にエミッタ・フォロア回路を挿入した増幅回路について説明しました。入力インピーダンスを高めると同時に出力インピーダンスを下げる役割を担うエミッタ・フォロアを挿入することで、増幅回路を複数段接続した場合でも、理想的な電圧利得を得ることができました。
今回は前回に引き続き、エミッタ接地回路の特性を向上させるサプリメントのような「ベース接地回路」を紹介します。ベース接地回路を使えば、増幅回路の周波数特性の改善が図れます。
図1にベース接地回路を組み込んだエミッタ接地回路を示しました。赤枠で囲んだ部分が、ベース接地回路とそのバイアス回路です。2009年7・8月号の本欄の図3に示したようなベース接地回路を組み込まない増幅回路の周波数特性と比較すると、周波数が100MHzを超える領域で電圧利得の低下幅が小さくなっています(図2)。つまり、より高い周波数の入力信号まで増幅できるようになったのです。
図2 高周波領域で電圧利得の低下を抑制 エミッタ接地回路でベース接地を使わない場合は100MHzを超えた高周波領域で利得が急激に低下していましたが(赤線)、ベース接地回路を組み込んでこれを防ぎました(青線)。例えば、100MHzのとき70dBだったのが、75dBに高められます。
ミラー効果を抑制
ベース接地回路によって周波数特性を改善できる理由は、反転増幅回路の「ミラー効果」の悪影響を抑制できることにあります。
ミラー効果とは、図3に示したように、反転増幅器の入力と出力の間にあるキャパシタンス(C1)は、増幅器の電圧利得の値を乗じて入力とグラウンド(GND)の間に挿入した場合(C2)と等価であるという法則です。
この電圧利得倍になったキャパシタンスが、増幅回路の周波数特性に悪影響を与えてしまうのです。なぜなら、前段の増幅回路の出力インピーダンスとの組み合わせによって高域遮断フィルタ(低域通過フィルタ)を形成してしまい、入力信号を高周波領域で減衰させてしまうからです。例えば、前段がエミッタ接地回路の場合はコレクタ抵抗が出力インピーダンスに相当します。
図3 反転増幅回路のミラー効果 反転増幅器の入力と出力の間にあるコンデンサ(a)は、増幅器の電圧利得倍に大きくして入力とグラウンド(GND)の間に挿入したのと同じ効果を生みます(b)。これがミラー効果です。
図3(a)の入力電圧(Vi1)が上昇すると、反転増幅器ですのでキャパシタンスC1の出力側の電圧(Vo1)は入力側の電圧上昇分に電圧利得(−Gv)を乗じた分だけ下がります。結果、キャパシタンスの両端にはVo1−Ve1の電圧が印加されることになり、これによって電流(i)がR1を通ってC1に流れ込むことになります。つまり、C1を電圧利得だけ乗じて入力とGNDの間に挿入したのと同じ効果を生みます。
ではなぜ、増幅回路の入出力間のキャパシタンスが、電圧利得を乗じて入力とGNDの間に挿入したものと等価になるのか式を使って説明しましょう。まず、図3(a)の増幅回路の入力端電圧(交流成分、以下同)Ve1と出力電圧Vo1の関係は以下になります。
R1とC1を流れる電流iは、
となります。ここでは、計算式を簡単にするために増幅回路に流れ込む電流は無いものとしていますが、流れ込む電流を考慮して計算した場合も同じ結果が得られます。ここで、Zc1はキャパシタンスのインピーダンスでZc1=1/jωC1となります。これらの式を整理すると、
となります。一方、図3(b)の入力端電圧(Ve2)と出力電圧(Vo2)の関係は以下になります。
ここで入力端電圧Ve2は、入力電圧Vi2をR2とC2で分圧したときのC2の電圧降下に相当するので、
となります。数式(3)と(5)を比較すると一目瞭然(りょうぜん)で、キャパシタンスC1に(1+Gv)が付いている以外は全く同じです。すなわち、図3(b)の回路で、
のキャパシタンスを入力とGNDに挿入すれば、図3(a)の回路と同じ特性が得られることが分かります。
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