太陽電池の未来、変換効率はどこまで高まるか:エネルギー技術 太陽電池(2/2 ページ)
現在主力のSi(シリコン)太陽電池は、変換効率を30%以上に高めることができない。変換効率40%以上を狙う技術は5種類あり、2020年以降の実用化を目指している。
40%を実現する手法とは
現在量産中の太陽電池では変換効率40%を狙えない。比較的量産が近い他方式の太陽電池でも難しい。それではどのような太陽電池であれば、40%を狙えるのだろうか。
そのような太陽電池技術の候補は、5種類ある。モノリシック構造多接合、メカニカルスタック、量子ナノ構造膜多接合、量子ドット増感型タンデム、中間バンド構造である*2)。いずれも1cm角程度の小規模なセルを用いた研究段階にあり、最も量産が早いと考えられているモノリシック構造多接合でも2020年ごろまで待たなくてはならない。
*2)このほか、太陽電池向けの波長変換材料などが研究初期段階にある。関連記事「太陽電池の変換効率を10%改善、EuとAlを用いた波長変換材料を開発」
モノリシック構造多接合は、III-V族半導体を用いたバンドギャップが異なる複数の層を垂直方向に接合することで変換効率を高める技術だ。
シャープは2010年5月に42.1%という高い変換効率をモノリシック構造多接合セルの一種である「化合物3接合型太陽電池」で達成した(図1)。変換効率の値は自社測定であるものの、これまで発表された値の中で最も高い変換効率であると主張する。
42.1%という変換効率は、レンズを用いて太陽光を230倍に集光した際の測定値である。集光しない場合は35.8%(産業技術総合研究所が測定)だったという。2014年度の目標は集光時に45%を達成することだ。
シャープの太陽電池セルは、光が入射する方向の順にまず、バンドギャップが1.88eVであるInGaP(インジウムガリウムリン)、次に1.42eVであるGaAs(ガリウムヒ素)、そして0.88eVであるInGaAs(インジウムガリウムヒ素)を垂直方向に並べた。入射方向から順に波長が短い光を効率的に吸収できる(図2)。
シャープの手法ではSiと格子定数が近いInGaPとGaAsを順にエピタキシャル成長し、格子定数の大きなInGaAsとの間にバッファー層を設けている。従って大面積のセルを製造することは難しい。試作したセルの面積は0.88cm2である。
なお3接合の場合、非集光時の変換効率の理論上限は39%である。このため、集光装置を使わずに40%以上の変換効率を実現するには4接合以上の太陽電池セルを開発する必要がある。
中間バンド構造なら60%を超える可能性
多接合を究極まで押し進めたのが、中間バンド構造太陽電池だ。量子ドットや超格子構造などを用いて中間バンド構造を実現すれば、太陽光に含まれる全波長の光を有効利用できる。
例えば半導体からなる量子ドットを3次元状に規則的に多数並べることができれば、量子ドット間の結合によって材料が備える本来のバンドとは異なるエネルギー準位に中間バンドを形成できる。
図3 量子ドット太陽電池の構造 産業技術総合研究所が試作したもの。上部電極の直下にp層をおき、GaAsからなるi層の中にInGaAsの量子ドット(図中の赤い三角形)を規則的に並べた。下部はn層と下部電極である。電極と量子ドット以外の部分はGaAsを用いた。出典:産業技術総合研究所の資料を元に本誌が作成
産業技術総合研究所は2010年8月に開催された第6回「産業技術総合研究所 太陽光研究センター 成果報告会」において、InGaAs/GaAs量子ドットを100層以上積層したと発表した(図3)。「今回の成果は歪み補償技術を用いずに100層以上積層した他、中間バンドの形成を確認したこと、太陽電池として機能することを確認したことである」(産業技術総合研究所光技術研究部門光電子制御デバイスグループで主任研究員を務める菅谷武芳氏)。
同様の手法を採る東京大学の研究では格子定数の小さなGaNAs(窒化ガリウムヒ素)をバリア層中で歪み補償層として用いている。今回の成果では、As2分子線や成長中断法を用いることで、性能を低下させる異種材料を使わずに積層できたという。量子ドット間の距離が3.5nmのとき、中間バンドを確認できた。太陽電池として動作させた場合の変換効率は9.2%(10層)、8%(20層)、7%(30層)だった。量子ドット間の距離が35nmの場合に最も変換効率が高くなったという。
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