第20回 差動対がオペアンプに変身(5)〜コンデンサを追加して位相補償〜:Analog ABC(アナログ技術基礎講座)(1/2 ページ)
前回に続き今回も、増幅回路の周波数特性を改善する方法を解説します。安定して動作するオペアンプを設計する上で重要なことは、十分な位相余裕と利得(ゲイン)余裕を確保することです。
本連載では、第16回以降、差動対から出発して、さまざまな付加回路を使って理想的なオペアンプに近づける方法を紹介してきました。
今回は、オペアンプについて紹介する最終回です。オペアンプには、(1)利得が高いこと、(2)入出力動作範囲が広いこと、(3)周波数特性のオープン特性が1次傾斜であることという3つの条件があります。前回(第19回)に続き今回も、(3)の周波数特性を改善する方法を解説します。
オペアンプを安定動作させるには…
前回は、これまで設計してきたオペアンプをボルテージフォロアとして使い、パルス信号を入力すると、出力信号に激しいリンギングが発生してしまう理由を解説しました。ボルテージフォロアにパルス信号を入力したのは、回路の動作や安定性を確認するためです。正弦波ではなくパルス信号を使うことで、パルス信号が含んでいる幅広い周波数範囲に対する特性を確認しました。出力信号にリンギングがあったままだと、負荷の条件などによっては回路が発振してしまいます。これでは、動作が不安定でオペアンプとして使うことはできません。
安定して動作するオペアンプを設計する上で重要なことは、十分な位相余裕と利得(ゲイン)余裕を確保することです。利得余裕と位相余裕とは、回路が発振してしまう状況から、利得と位相がどれだけかけ離れているかを示しています。前回、これまで設計してきたオペアンプの周波数特性を確認したところ、十分な位相余裕を確保できていないことが分かりました。
位相余裕のない状態を改善するには、コンデンサを増幅回路に追加して、応答速度を遅くし、位相余裕を増やすのが一般的です。
ミラー効果を利用
オペアンプをICで作るとき、製造技術の観点から静電容量が大きなコンデンサを載せられません。しかし、位相余裕のない状態を改善すること、すなわち位相補償には静電容量の大きなコンデンサが必要です。
そこで、ミラー効果を使います。ミラー効果とは、反転増幅器の入力と出力の間にあるコンデンサは、増幅器の電圧利得倍に大きくして入力とグラウンド(GND)の間に挿入したのと同じ効果を生むというものです。ミラー効果の詳しい説明は、第10回「エミッタ接地回路のサプリメント 〜 ベース接地回路 〜」を参照して下さい。
図1はコンデンサを追加したオペアンプです。このオペアンプのどこに反転増幅器があるかというと、トランジスタQ1とQ2、Q5、Q7が反転増幅器として動作しています。
この4つのトランジスタのある場所のうち、最も効果的なコンデンサの挿入場所を考えてみましょう。最も効果的なのは、信号源インピーダンスが高い場所です。静電容量が小さなコンデンサを使いながらも、大きな時定数(R×C)を得るには、抵抗分が大きいほど有利になるからです。時定数を大きくすればオペアンプの応答速度が遅くなり、位相余裕を増やせます。
図1を見て下さい。Q1とQ2は、入力端子に接続されているため、オペアンプの前段の回路のインピーダンスの影響を受けてしまい、不適切です。Q5は、信号源インピーダンスが低いので効果的ではありません。Q5の信号源インピーダンスが低いのは、Q6のベースとコレクタが接続されているためです。
残ったのはQ7です。Q7の場合、信号源インピーダンスはQ5とQ2それぞれのコレクタのみに接続されているので、非常に高いインピーダンスを得ることができます。以上の考えのもと、反転増幅器であるQ7の入力と出力の間に位相補償用のコンデンサを挿入しました。
図2(a)に、位相補償用コンデンサを挿入したオペアンプの周波数特性を示しました。シミュレーション時の回路構成は、前回の図4(a)です。位相余裕とは、前述のように回路が発振してしまう状況から位相がどれだけかけ離れているかを表した指標で、具体的には利得が0dBにまで下がったときの、入力信号に対する出力信号の位相です。この値が0度から離れているほど、余裕があることになります。入力信号と出力信号が同相とは位相が0度のことですので、位相余裕とは同相になるどれぐらい手前で、位相の変化が止まっているかを表しています。
図2 位相補償コンデンサを挿入したオペアンプの周波数特性と出力信号の波形 (a)は周波数特性、(b)は出力信号の波形です。前回までに設計したオペアンプの位相余裕はほぼ0度でしたが、位相補償用コンデンサを追加することでおよそ40度まで改善できました。また、これまでは出力波形にリンギングが含まれていましたが、リンギングも大幅に減っています。
図2(a)を見ると、位相余裕が40度ほど確保できたことが分かります。前回までに設計したオペアンプの位相余裕はほぼ0度でしたので、大きく改善できたことが分かります。
前回と同様に、動作を確認するために、位相補償用コンデンサを挿入したオペアンプをボルテージフォロアとして使い、パルス信号を入力してみます(図2(b))。これまでのオペアンプ回路を使った場合に比べると応答速度は遅くなっていますが、リンギングは大幅に減っていること分かります。これまでのオペアンプ回路の出力特性は、前回の図2(b)に掲載してあります。位相補償用コンデンサを追加することで、位相余裕を確保し、リンギングの発生を抑えられました。
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