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第28回 カレントミラーで2つのMOSFETの歩調を合わせるAnalog ABC(アナログ技術基礎講座)(2/2 ページ)

前回紹介した増幅回路は、2つのMOSFETのしきい値(Vth)のわずかなずれが、利得や動作点に大きな影響を与えるという欠点がありました。今回は、欠点をどのように改善するかを紹介しましょう。

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ゲート接地で応答速度を向上

 能動負荷を使い利得を高めた増幅回路で発生する課題として、応答速度が遅くなることが残っています。この課題への対処方法を紹介しましょう。

 応答速度が遅くなるのは、MOSFET(M3)のゲートとドレインの間に寄生する静電容量Cgdが原因です。増幅回路の入力と出力の間にある静電容量なので、ミラー効果によって静電容量が利得倍に増えて、応答速度の低下を引き起こしてしまうのです。

 ミラー効果を抑制するために、図1の増幅回路にさらにゲート接地回路を追加しました(図3)。ゲート接地回路は、バイポーラトランジスタのベース接地回路と同じ効果が得られ、応答速度を高められます。(ミラー効果やベース接地回路の動作については、第10回の「エミッタ接地回路のサプリメント 〜 ベース接地回路 〜」を参照して下さい)

図3
図3 ゲート接地回路を追加した増幅回路 応答速度を高めるために、図1にさらにゲート接地回路を追加しました。バイポーラトランジスタのベース接地回路と同様に、ミラー効果を抑制し、増幅回路の応答速度を高める効果が得られます。

 図4(a)に、ゲート接地回路を使ったミラー効果対策を施した増幅回路の交流解析の結果を示しました。ゲート接地回路の効果は一目瞭然で、高域遮断周波数がおよそ10MHzから100MHzに向上しました。

 また、高域遮断周波数よりも低い周波数帯域で、利得が2dBほど高くなっていることも分かります。これは、M3とM7がカスケード接続されたことで、より出力インピーダンスが高くなり、理想的な電流源に近づいたためです。

図4
図4
図4 ゲート接地回路を追加した効果 図上の(a)は利得の周波数特性です。ミラー効果を抑えたことで周波数特性が改善し、高域遮断周波数を高めることができました。また、図3のM3とM7がカスケード接続されたことで、利得も向上しています。図下の(b)は過渡解析の結果です。利得向上に伴って、振幅が大きくなったことを確認できました。

 図4(b)に過渡解析の結果を示しました。周波数が50MHz、振幅が100mVppの信号を図3の回路に入力したときの出力です。ゲート接地回路を追加した方が、振幅が大きくなっていることを確認できました。

 次回は、これまで紹介してきた幾つかの要素回路を組み合わせましょう。バイポーラトラジスタを使って紹介した差動対と、MOSFETの増幅回路を組み合わせた回路を解説する予定です。

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Profile

美齊津摂夫(みさいず せつお)

1986年に大手の通信系ハードウエア開発会社に入社し、光通信向けモジュールの開発に携わる。2004年に、ディー・クルー・テクノロジーズに入社。現在は、同社の常務取締役CTO(最高技術責任者)兼プラットフォーム開発統括部長を務めている。「大学では電気工学科に所属していたのですが、学生のときにはアナログ回路の勉強を避けていました。ですから、トランジスタや電界効果トランジスタ(FET)を使ったアナログ回路の世界には、社会人になってから出会ったといっていいと思います。なぜかアナログ回路の魅力に取りつかれ、23年目になりました」(同氏)。


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